
「カープ女子」の消失は、単なるチームの弱さが原因ではない
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TL;DR
本分析では、広島東洋カープのファン層が減少している背景を探ります。チケットシステムの不備、ライト層の排除、そして勝利以外の魅力的なストーリーテリングの欠如が、その要因として挙げられます。
Reading the 日本語 translation
カープの試合のスタンドが埋まらない。「弱いから」で止まると本質を見失う。経営視点で起きていることを正直に書く。
セ・リーグワーストの観客動員。
今季の広島カープのマツダスタジアムでの14試合の平均観客数は27,541人。試合は軒並み、33,000人のキャパシティに届いていない。「カープ女子」が流行語になったあの頃はチケットが取れず、ビジターゲームでも三塁側が埋まっていた。その面影は今やどこにもない。
「チームが弱いから」という説明は、多くの部分を占める。だが、それだけではないと思う。
チケット販売の設計、ライト層へのアプローチ、エンターテインメントとしての競争力。これらが複合的に絡み合っている。
席が埋まらない時は、「お客様が来ない」のではなく、「来たくても来られない、あるいは来たくない仕組みになっている」と疑うべきだ。
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■ チケット設計の問題:「来たいお客様を来させない」仕組み
まず、チケットについて正直に書かせてほしい。
チケットは一斉販売で即完売する。公式リセールは存在しない。ファンクラブ特典は機能していない。スケジュールも分からない3月1日に「とにかく掴め」という仕組みになっている。
これはつまり、「来たいお客様が来られない」ように設計されたシステムだ。
ファンクラブのチケット先行販売で、ある人がこんな切実な話を聞いた。早めに接続したのに、グループ席は完売。仕方なく外野の後方指定席を取った。ところが一般販売が始まると、グループ席がまだ売られている。ファンクラブに入る意味を感じなかったという。
経営視点で見れば、これは深刻だ。ファンクラブ、つまり熱量の高いファンへの優先購入権が機能していない。コアファンへの裏切りと言える。
一方で、後日大事な予定が入ってもキャンセルはできない。公式リセールがないから、チケットはダフ屋に流れる。結果的に、行こうと思ったら定価以上のお金を払って買わなければならない状況になる。
これを経営者として読むと、「顧客体験設計の失敗」としか言いようがない。集客の基本は、「来たい人が来やすい仕組み」を作ることだ。その基本を整えずに「お客様が来ない」と言うのは、順番が違う。
「自分たちは、来てほしいお客様が来られない構造を作っていないか?」これは、客足が落ちた時に最初に問うべき問いだ。
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■ 「カープ女子はにわか」という空気が経営を弱体化させる
「カープ女子」を「にわかファン」と揶揄する空気がある。経営視点で言えば、これは逆効果だと思う。
プロ野球はショービジネスだ。ライト層をどう呼び込むかは、経営の根幹に関わる課題である。
ライト層は、チームが弱いと来なくなる。それは事実だ。だが、強い時には来る。スタジアムに来て、飲食し、グッズを買い、SNSに投稿し、友人を誘う。その循環がエンタメ収益を支えている。
コアファンだけでは席は埋まらない。コアファンはスタジアムに来るが、全試合の全席を埋めることはできない。ライト層がいて初めて、スタジアムは「賑わっている」雰囲気になる。その雰囲気がさらに人を呼ぶ。
「カープ女子はにわか」という空気は、ライト層を遠ざける。「自分たちは本当のファンじゃない」と思わせることは、次回来場のハードルを上げる。来るための心理的コストが増えるのだ。
ビジネスでも同じことが起きる。「本当の顧客」「コアな顧客」だけを評価し、新規やライトな顧客を軽視する会社は、徐々に顧客基盤が痩せ細っていく。コア顧客は年齢とともに減る。新規を呼び込み続けなければ、長期的には縮小するしかない。
ライト層を呼び込めるかどうかが、長期的な集客力を決める。「にわか」を嘲笑う文化は、自らの首を絞めている。
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■ 「弱くても見どころ」を作る
「チームが弱くても見たい選手がいる、成長を感じられるなら人は来る。でも今のカープは同じ負けパターンでつまらない試合が多すぎる」という声があった。
これは核心を突いている。
弱い時期でも「見どころ」を作って集客できるかどうかは、球団の努力次第だ。
ルーキーの成長を追うストーリー。特定選手の記録への挑戦。ライバル球団との因縁。そうした「今日の試合を見る理由」を作れる球団は、弱い時期でも一定の観客を維持できる。
今のカープには、その「見る理由」が伝わっていない部分がある。坂倉将吾を4番で起用するのは面白い試みだ。若手が結果を出す試合は確かに面白い。だが、そのストーリーがスタジアムに来ていないファンに届いているだろうか。
ビジネスでも同じだ。製品が完璧でなくても、「これを使う理由」「今関わる理由」を作れる会社と作れない会社では、継続率が違う。完璧を待っていたら、関係は切れてしまう。
弱い時期に「見どころ」を設計できるかどうかが、長期的なファンを作る。勝っている時だけ盛り上がる設計では、苦しい時期に関係が切れる。
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■ 「戦力補強よりグッズと座席改修」に投資する経営
フロントへの批判としてよく聞かれるのがこの点だ。
チームを強くするための投資よりも、グッズ開発や座席改修に力を入れている。ファンの思いや声が完全に無視されていると感じる。
これは経営における短期と長期のバランスの問題だと見ている。
グッズ収入は安定している。座席改修は快適性を高め、単価を上げられる。どちらも短期的には意味のある施策だ。
だが、長期的に見れば、「チームが強くないと客が来ない」という構造である以上、チームへの投資を怠れば観客は減る。グッズも座席も、客が来て初めて意味を持つ。
本質的価値(チーム力・試合の面白さ)への投資を怠り、周辺体験(グッズ・座席)だけを磨いても、根本的な問題は解決しない。
ビジネスでも同じことが起きる。製品品質を上げずに、パッケージや販路だけを改善する。本質的価値がなければ、周辺をいくら磨いても長続きしない。
財務を見てきた経験から言えば、短期的な収益を優先し、長期的な投資を怠る経営は、数年後には必ず行き詰まる。カープのフロントの判断が本当にそうなのかは分からないが、ファンがそう感じているという事実は、確実にコミュニケーションの問題がある。
本質的価値への投資なしに周辺体験を磨いても長続きしない。これはプロ野球もビジネスも同じだと思う。
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■ 「エンタメ競争」という視点
「今のカープに数千円払うなら、美味い飯を食うか映画を見た方が楽しい」という声があった。
これは経営の本質を突いている。
すべてのエンターテインメントは競争関係にある。
野球観戦は、映画、外食、旅行、ゲーム、動画配信と競合する。野球は、「今日の時間と数千円をどこに使うか」という選択肢の中に含まれている。
カープ女子ブームの時は、「カープ観戦」自体がトレンドだった。行くことが「おしゃれ」「楽しい」というイメージを持たれていた。あの時期、カープはエンタメ競争の中で強いポジションを占めていた。
今は、そのポジションから落ちている。試合は面白くない。チームは弱い。行くメリットが見えない。その状態では、他のエンタメに負ける。
令和のエンタメの多様化はさらに進んでいる。自宅で配信を通じてトップレベルのコンテンツが見られる。外食の選択肢は増えた。体験型エンタメも増えた。この競争の中で選ばれ続けるためには、「今日スタジアムに来る理由」を作り続けなければならない。
エンタメ競争に勝てない組織は、客足が落ちる。これはプロ野球球団も小さなビジネスも同じだと思う。
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■ まとめ
- 「来たいお客様が来られない」チケット設計の問題がある。顧客体験設計の失敗だ。
- 「カープ女子はにわか」という空気がライト層を遠ざける。ライト層の集客が長期的な集客力を決める。
- 弱い時期でも「今日見る理由」を設計できるか。その力が長期的なファンを作る。
- 本質的価値(チーム力)への投資なしに周辺体験を磨いても長続きしない。
- すべてのエンタメは競争関係にある。映画や外食や配信に勝てる「今日来る理由」を作り続ける必要がある。
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「カープ女子はどこへ行ったのか」という問いに対する答えは、シンプルだと思う。
来る理由がなくなったから来なくなった。それだけだ。
来る理由を作るのは球団の仕事だ。チームを強くすること、チケットを取りやすくすること、弱い時期でも見どころを発信すること、ライト層が来やすい空気を作ること。
どれも「言うは易く行うは難し」だが、それをやり続けることがショービジネスを維持することだと思う。
客足が落ちた時、「なぜ客が来ないのか」ではなく、「来る理由を設計できていないのではないか」と問うべきだ。これは野球球団も経営も同じだと思う。


