ペアローンでタワマンを購入し離婚した夫婦の物語:待ち受けていた「豪華な地獄」

ペアローンでタワマンを購入し離婚した夫婦の物語:待ち受けていた「豪華な地獄」

@PageTurner_and
日本語3 日前 · 2026年5月11日

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TL;DR

キャリアと家庭の目標の不一致により、結婚生活が破綻した夫婦の悲劇的な皮肉を描いた短編。経済的には利益を得たものの、精神的には壊滅的な離婚という結末を辿る。

以前「連帯ローンでタワマンを買って離婚した話 ネットで読んだのとは『全然違う地獄』でした」という小説を書いて、たくさんの方に読んでいただきました(751万インプレッション、4921いいね)。本当にありがとうございました…。

[https://x.com/PageTurner_and/status/2048182109903454378](https://x.com/PageTurner_and/status/2048182109903454378)

ただ、あれは夫目線で描いた「連帯ローン離婚」でした。片方から見た「真実」でしかなかった。

離婚って、どちらか一方だけが一方的に悪いなんてことはないと思うんです。

夫は自分が被害者だと思っている。でも、それがすべてなのか?

そこで、妻目線の話を書いてみました。夫のバージョンとは違う景色が見えると思います。

(どちらを先に読んでも、妻バージョンでも夫バージョンでも、味わい深いと思います。)

――――――

「連帯ローンでタワマンを買って離婚した話 待っていた『ラグジュアリーな地獄』(妻編)」

マンションを買うという行為は、未来があることを前提にした行為だと思う。

この部屋で目覚めること。このキッチンでパスタを茹でること。このリビングで夫と『バチェラー』を見ること。この玄関にサイベックスのベビーカーを置くこと。もしかしたら壁にABCのポスターを貼ること。

そうやって、家族の未来を想像しながら高い契約書にサインをする。幸せが待っていると信じて、人生で一番高い買い物をする。

ただ、実際に払っているのは私たちじゃない。銀行が一時的に夢を肩代わりして、現実の請求書を35年後に送ってくる。

でも、それでよかった。夫も私も27歳だった。六本木のIT企業に勤める新婚夫婦で、それぞれ年収700万円。世帯年収1400万円。20代の夫婦にしては、結構やれてる方じゃない?

さて、どんなマンションを買おうか。

行きつけのビストロでSUUMOを見ながら、夫が提案した購入計画はシンプルだった。

二人とも憧れていたベイエリアのタワマンを、単独ローンで買う。広さは45平米ほどの広めの1LDK、中古で5000万円。新婚夫婦には十分な広さだ。それで子どもができたら2LDKに住み替える。流動性の高いタワマンならではの戦略だと、彼は得意げに言った。

でも、それってちょっと変じゃない?

私だって夫と同じくらい稼いでる。夫がローンを組めるなら、私も同じ額を組める。

だから、私はこう提案した。

「どうせ子どもを作るなら、最初から2LDKの方がよくない?」

「いや、でも9000万は高いよ」

夫は、もっともなことを言っているような顔をしていた。

「でも、連帯ローンならできるよ」と私は返した。

連帯ローン。夫婦がお互いに債務を保証し合うことで、より多くのお金を借りられる制度。どちらかが払えなくなったら、もう片方が払わなければならない。パートナーを信頼していなければ絶対に結べない契約。

だからこそ、私たちにぴったりだと思った。

一緒に人生を築いていく。結婚式の誓いや指輪の交換よりも、ずっと具体的な愛の証明だと思った。だって、私たちの前には明るい未来しかなかったんだから。

「いいね。そうしよう」

夫は、私が一番好きな笑顔で言った。

*

2LDKの部屋の内見の日、不動産屋は窓の前で立ち止まって言った。

「この眺望はなかなか出ませんよ」

不動産屋はいつもそう言う。なかなか出ない。今がチャンス。他にも購入を検討している人がいる。迷っている間に売れてしまう。彼らの世界では、すべての物件が希少で、すべての買い手が遅刻者で、窓の外の景色はすべて一期一会の出会いなのだ。

眺望が売りのベイエリアでは、「なかなか出ない」はきっと誇張だ。とはいえ、「よくある眺めです」と言う営業マンはいない。

もしそんな営業マンがいたら、逆に信頼してしまいそうだけど、きっと会社では長く持たないだろう。「正直不動産」がフィクションとして成立するのは、現実には存在しないからだ。

実際、眺めは素晴らしかったので、私はただ「わあ」と言った。

夫はそれを聞いて嬉しそうに笑った。

私が嬉しいと、それを見て夫が嬉しそうにする。だから私はわざと大げさに喜んで見せた。だって、それが彼を笑顔にしたから。

それはサービス精神だったのか、愛情だったのか、それともただ彼の笑顔が見たかっただけなのか。今となってはわからない。たぶん、その全部だったんだと思う。

「ここ、書斎にぴったりだね」と、私は空き部屋を見ながら言った。

「子どもができるまではね」

「そうそう。普段は私のリモートワーク部屋。在宅の日もあるし」

「寝室は一緒に使おう」

「もちろん」

*

連帯ローンの申請書には当然、署名欄があった。夫が先に書き、私が続いた。

「婚姻届を出した時を思い出すね」

くすぐったい感覚があった。愛のように見える借金。あるいは、借金の顔をした愛。

婚姻届が二人を法的に縛るものなら、連帯ローンは経済的に縛るものなのかもしれない。

どちらも自由を制限する鎖だけど、愛そのものが、「あなた以外は愛さない」と宣言する、かなり暴力的で排他的な契約だ。

私たちはその契約書にサインをした。薬指にはブシュロンの結婚指輪を、首にはauじぶん銀行のお揃いの首輪をはめた。

*

ダイニングテーブルは目黒の小さな家具屋で買った。「ニトリでいいよ」と言う夫を説得して、デートがてら目黒の家具街を巡った。

そして、家具街の端っこにニトリを見つけて、二人で苦笑いした。「さすがのマーケティング。ニトリ会長、やるな」と夫は言い、入ろうとしたけど、私が止めて、目をつけていた家具屋に引っ張っていった。

二人でお金を出し合って、グレージュのフローリングにぴったり合う、ライトグレーのダイニングテーブルを買った。

引っ越し当日は、バタバタしてダイニングテーブルを組み立てる時間がなくて、床に座ってコンビニのおにぎりを食べた。床に座って食べたサーモンおにぎりは、幸せの味がした。

「ここが書斎ね」

私は空き部屋を指さした。リモートワークにぴったりだった。

「で、子どもができたら子ども部屋」と夫が笑いながら言った。

「そうね。まあ、一人の子どもが使うには最初はちょっと贅沢だけど」

「まだ子どももいないのに」

「うるさいな」

そう言って、私は笑った。

この会話を、私はおそらく一生忘れない。私たちがずっと一緒にいること、子どもができることを、私は一度も疑ったことがなかった。そして、そのどちらも実現しないなんて、想像もしていなかった。

夜、カーテンのない窓からはベイエリアの灯りが見えた。タワーマンションが遠く近くに立ち並び、それぞれの窓の中に違う人生が詰まっているのが感じられた。私たちもその一部になったような気がした。

大きなガラス窓に映る自分たちの姿の中に、ちゃんとした家族を築いていけるような気がした。

はっきり言って、私はバカだった。

*

最初の亀裂は、仕事だった。

私は仕事が楽しくなり始めた。

元々、一生懸命働いてきた方だ。でも、ある時から、私の判断がチームの成果に直結するようになった。大きな仕事を任されるようになった。数字がついてきた。上司から高く評価されるようになった。

それに対して、自分が思っていた以上に、私は嬉しかった。

認められること。任されること。替えの効かない人として扱われること。それはまるで麻薬だった。給料まで出る合法ドラッグ。私の脳はハマった。

その頃から、子どもを持つことの意味が変わった。それまで、子どもは未来の幸せの象徴そのものだった。2LDKのあの一部屋に書き込まれた明るい計画。

でも、仕事が面白くなった瞬間、妊娠と出産は「計画」ではなく「中断」に見えるようになった。

私だけが止まる。私だけが脇に置かれる。やっと乗れた船から、私だけが降ろされる。この中断を強制されるのは、女だけだ。生物学的に。

夫は同じ年齢で、同じ収入で、同じ働き方をしている。でも、子どもを持つとなると、全身で引き受けるのは私の方だ。

夫も育休は取るだろう。でも、キャリアに長いブランクができるのは私の方だ。マミートラックに乗せられるかもしれないのも私の方だ。

夫のせいじゃない。でも、すごく、すごく不公平だと思った。

そう思い始めると、夫が無邪気に「早く子どもが欲しいな」と言うのが嫌になった。

今は、仕事を中断したくない。その気持ちがどんどん強くなった。今思えば、その気持ちを素直に話せばよかった。でも、当時は言えなかった。

だって、2LDKを提案したのは私だ。「どうせ子どもを作るなら」と言ったのも私だ。

今さら「仕事が面白くなったから、ちょっと待って」と言うのは、すごく身勝手に思えた。

夫をがっかりさせたくなかった。まっすぐに子どもを欲しがっている夫を。

だから、私はごまかした。だから、私は黙った。当然、夫は黙っていなかった。

男の子と女の子、どっちがいい? 名前は考えた? どんな習い事をさせようか?

二人ともブライダルチェックを受けていたから、身体的な問題はないとわかっていた。だからこそ、夫は無邪気に未来の希望を語った。

純白の希望。

でも、私にとっては、それは迷惑な白さだった。

彼が口を開けば、子どものことだった。未来のこと。私は徐々に、夫と話すのを避けるようになった。そしてもちろん、セックスも。

*

確かに、夫は眠りが浅かった。

私がトイレに起きるだけでも、彼は目を覚ました。私はできるだけ静かに、電気もつけずに、スマホの明かりだけで用を足すようにしていた。

夫にそうしろと言われたわけじゃないけど、睡眠不足で病気の小鳥みたいな顔をしているのを見ると、自然とそうするようになった。

ある時、私はデジタル庁関連の大型プロジェクトのメンバーに選ばれた。昇進だった。自分の能力が認められたのは嬉しかったけど、膨大な仕事を捌くために、朝7時には出社しなければならなくなった。

朝6時前に起きるようになったけど、夫もその時間に起きるようになった。今度は病気の小鳥どころか、死にかけの小鳥だった。

「朝、起こさないように、こっちの部屋で寝るよ」

そう言って、私は別の部屋で寝ることにした。気の毒だと思ったのは本心だ。でも、その本心に別の気持ちが混ざっていなかったと言えば、嘘になる。

夜中に伸びてくる手。

あれから解放される喜びが、確かにあった。

新しいベッドを注文した時、罪悪感はあった。目黒に行く時間がなかったので、ニトリのオンラインショップで買った。

*

私たちの関係は完全にギクシャクし始め、夫は私の機嫌を取ろうと必死になった。

彼はわざわざア・テ・スエまでケーキを買いに行った。

「これ、好きだよね?」と彼は言った。確かに好きだった。好きだった。でも、彼が買ってきたケーキには、「ちゃんと覚えてるよ」「これだけやってるんだ」という小さな札が刺さっているように感じられた。

ア・テ・スエは西荻窪駅からも吉祥寺駅からも遠い。私は、ケーキそのものよりも、ベイエリアとその店との距離を食べさせられているような気がした。

またある時は、彼は表参道のラ・スでフランス料理のコースに誘ってくれた。

ラ・スは、付き合い始めて最初の私の誕生日に行ったレストランだ。名物のフォアグラのクリスピーサンドはあまりに美味しくて、「おかわりはないんですか?」と冗談を言ったのを昨日のことのように覚えている。

でも、思い出のレストランは、壊れた関係の応急処置室ではない。今のボロボロの関係を、美しい思い出の上に重ねたくなかった。

客観的に見て、彼は良い夫だったと思う。でも、それらのすべてが、三流ウェブメディアの「妻を再び惚れさせる方法」の記事をなぞっているだけのように思えた。

夫のすることなすこと、すべてが私にはうるさかった。

*

このままじゃいけないと思った。だから、私は自分の気持ちを夫に話すことにした。

仕事が楽しいこと。今のプロジェクトをやり遂げたいこと。子どもはもう少し待ってほしいこと。

夫は理解したような顔をした。でも、やっぱり理解していなかった。

「今のうちの会社、マミートラックなんて実際ないんじゃない?」「俺も協力するよ」「育休は3ヶ月取れる」「いろんなリスクが上がるから、早めの方がいい」

彼の言うことは、すべて正しいような顔をしていた。それが腹立たしかった。間違っていれば、反論できる。でも、夫の言葉はいつも半分正しかった。半分正しい言葉は、完全に間違った言葉よりも厄介だ。

俺も協力するよ。そう言う夫のキャリアは止まらない。

私が妊娠して、産んで、休んで、復帰して、もしかしたら遅れを取っている間、夫は着実に実績を積む。それなのに、「俺もやるよ」と言う。「やる」の前提が違う。私は全身を差し出す話をしているのに、彼は分業表の話をしている。

そのギャップをうまく説明できなかった。説明できなかった私が悪い。でも、説明しなくてもわかってくれよ、という怒りも夫に対してあった。

私は夫に理解してもらうのを諦めた。毎日、一人の部屋で眠り、一人の部屋で目覚めた。崩壊の種を着実に育てながら。

*

あの日、夫はとても酔っていた。

深夜、日付が変わった頃、玄関で大きな物音がした。何かが落ちる音、何かが壊れる音、あるいは、もうとっくに壊れていた何かを知らせに来た音のような気がした。

玄関にうずくまった夫は、焦点の合わない目で私を見上げた。そして、私のいつもの態度を批判し始めた。

冷たい。何を考えているかわからない。自分だけが頑張っている。どうして普通に話してくれないんだ。どうして寝室に戻ってこないんだ。

仕方なかったと思う。私から見ても、私の態度は最悪だった。だから、黙って聞いていた。時々うなずいた。

あの日、夫はひどく酔っていた。だからこそ、あの言葉を言えたんだと思う。

「子どもを作る気がないなら、何のために結婚したんだ」

夫は酔っていた。

だからこそ、本音だった。アルコールという薬で前頭葉を麻痺させ、自制心をオフにすることで、抑えていた本音が漏れたんだろう。

その瞬間、私は妻ではなくなった。私は恋人でも、人生を共にするパートナーでもなくなった。私は出産予定者になった。未来の子宮になった。2LDKを正当化するための身体になった。

私は何も言わずに玄関を離れた。

遠くで夫の泣き声が聞こえた。

冷たいドアノブを引いて、部屋に入った。子ども部屋になるはずだった部屋に。

*

胸に湧き上がったのは、怒りでも悲しみでもなかった。

ただ、大きな孤独だった。いつの間にか、そこに横たわっていた。

明るい未来を描いていると思っていた人。婚姻届と連帯ローン、二つの大事な書類に一緒にサインした人。あの窓の前で、私の「わあ」を聞いて嬉しそうに笑った人。床に座ってサーモンおにぎりを食べながら、子ども部屋の話をした人。

私が見ていた夫は、幻だったのか?

忙しさを言い訳にして、夫が起きる前に家を出て、夫が寝た後に帰るようになった。

*

そんな時、上司に誘われた。新入社員の頃からの上司で、結婚式の披露宴でもスピーチをしてくれた人だ。デジタル庁の件のプロジェクトリーダーでもある。

違和感はあった。令和の世の中、女性の部下を一対一で誘うのは普通は避ける。それでも、行った。

上司に良く思われたかったのか? 仕事を褒めてほしかったのか? 仕事の悩みをちゃんと聞いてほしかったのか? それとも、夫ではない男に誘われることで、子宮ではない女としての自分を確認したかったのか? あるいは、別の気持ちがあったのか? 今でもわからない。

清澄白河の蕎麦割烹。前から行きたかった店だった。

天ぷらは信じられないほどサクサクで、名物のからすみ蕎麦は、今までにない味だった。

上司は私の仕事を褒めた。たとえ下心があったとしても、それは絶妙なBGMに聞こえた。

帰り道、彼は私の手を握った。

私はその手を振り払わなかった。それは愛情じゃなかった。夫への復讐のような気持ちだった。

あの言葉への復讐。

…そう言うと、少し格好いいように聞こえる。でも、実際はもっとみっともなかった。傷つけられた分だけ、誰かを傷つけたかっただけだと思う。

握り返した上司の手は、生ぬるくて気持ち悪かった。

胸を刺したあの一言。あの言葉の重さはどれほどか。彼の言葉と私の行動、どちらがより罪深いか。天秤を想像してみても、どちらに傾くのかわからなかった。

そして、夫は私の身勝手な復讐を見てしまった。

*

夫は激怒した。仕方ないけど、彼は私が上司と付き合っていると完全に誤解していた。

私の言い分を全く聞こうとしない夫に、私はうんざりして、そして怒った。

いいよ、浮気したことにしてやろう。

「私が浮気したのは、あなたのせいだ」

私は彼に言った。

言った、と言うと勝ち誇っているように聞こえるけど、実際にはどこにも勝利はなかった。

私はただ、刺されたと思った場所から、同じくらい汚い刃を抜いて、彼に向けただけだった。

刃は錆びていた。それを握る私の手も汚れていた。

「いや、何言ってるんだ?」

「だって、私、ずっと苦しかったんだから」

「それは不倫とは別だろ」

「別じゃない。あなたがそうさせたんだ」

被害者のような言い分だ。手を握ったことは脇に置いて、夫の言葉や態度を並べ立てる。卑怯だった。

でも、そう思いながらも、言葉は止まらなかった。その言葉は、しばらく前からずっと頭の中で鳴り響いていた。

「子どもを作る気がないなら、何のために結婚したんだ」

私は産む機械じゃない。子どもを産むために生きているわけじゃない。

夫婦で子どもができなかったとしても、私は夫と人生を歩んでいくつもりだった。

幸せな家庭を築くつもりだった。でも、この人は私と家庭を築く気はない。

さらに、自分が壊したものを、自分が壊したと認める気もない。その事実が、静かに、しかし完全に、私の中に入り込んだ。

*

「離婚しよう」と夫が言ったのは、平日の夜だった。

窓の外には、タワーマンションの灯りが並んでいた。

驚いたけど、私はうなずいた。

*

ネットの記事では、連帯ローンの離婚は地獄だとよく言われている。

売るか売らないかで揉める。そもそも、ローン残高が売却額を上回る場合は、売りたくても売れない。片方が逃げたせいで、二人分のローンを払っている人の嘆きも読んだ。

連帯ローンなんてやめるべきだ。地獄しか待っていない。

だから、私はかなり覚悟していた。泥沼が始まると思っていた。

でも、査定に出してみると、想像とは違った。3年前に9000万円で買った部屋は、市場の上昇で1億4000万円になっていた。

意味がわからなかった。私たちの結婚生活は見事に凋落しているのに、部屋だけは上昇している。あとは売却して、ローン残高を返済し、利益を分けるだけだった。

連帯ローンだから、二人とも3000万円の特別控除が使える。譲渡所得税はなんとゼロ。

結局、手元にはそれぞれ2500万円以上の現金が残った。驚いた。世間では地獄と言われているのに。

たまたま市場が良かっただけだけど、もしあの時1LDKにしていたら、こんなに利益は出なかっただろう。なんて嫌な正解。

もしあの時、1LDKにしていたら。

物理的に、別々の寝室を持つことはできなかった。そうしていたら、夫婦でより多くのコミュニケーションが取れていただろうか?

意味のない想像だ。人生はA/Bテストを許してくれない。

*

私が先に出ていくことにした。もう、私たちの家の亡骸を見ていられなかった。

荷造りは引っ越し業者に任せた。夫が仕事でいない平日に。私の部屋は、驚くほど効率的な手際で、瞬時に空っぽになった。

子ども部屋になるはずだった部屋。それは書斎になり、寝室になり、シェルターになり、最後には、ただの空き部屋になった。

「ここに子どものベッドを置いて。机はこっちかな」

突然、夫の言葉が蘇った。そして、突然、幻覚が見えた。

そこに夫がいて、小さな子どもがいる。夫が子どもに何かを教えていて、私がそこにおやつを持って行ったところだ。

「どうして同じミスを繰り返すんだ」と夫が子どもを叱り、子どもは「もうゲームがしたいよ」と口をとがらせる。

私は夫に叱りすぎだと言う。夫は少しムッとして、でもここは大事なところだと言う。子どもは椅子の上でじたばたする。おやつの皿には、買ってきたシュークリームが乗っている。

そんな、どこにでもあるような、騒がしくて、面倒で、幸せな休日。

何でもないようなその光景が、一番こたえた。

夫が望んで、私が躊躇して、そして消えた未来。いや、私が消した未来。

なぜ、もっと自分の気持ちを夫に話さなかったんだろう。なぜ、夫の優しさを素直に受け取れなかったんだろう。なぜ、夫にあんな酷いことを言われた時、直接怒らなかったんだろう。なぜ、浮気を否定しなかったんだろう。なぜ、彼が離婚を切り出した時、うなずいてしまったんだろう。

なぜ。

すべての選択が間違っていた。でも、正しい選択をしていたとしても、結果は同じだったような気がする。

窓の外には、ベイエリアのタワーマンション群が見えた。あの不誠実な不動産屋が言った通り、眺めはいい。

タワーマンションには何百もの部屋がある。遠くから見ると、どの家族も上手くやっているように見える。不公平だ。それぞれの中では、誰かが喧嘩をしているかもしれないし、もう同じベッドで寝ていない夫婦がいるかもしれない。子ども部屋になるはずだった部屋で、妻が一人で泣いているかもしれない。外からは全くわからない。

私の口座には2500万円以上が振り込まれていた。離婚して、家を失って、なのに2500万円も残っている。とてもラグジュアリーな地獄だ。

でも、私は2500万円なんて欲しくなかった。

神様、これと引き換えに時間を戻してくれませんか?

感傷的で、愚かで、救いようのない自己憐憫。

*

鍵をかけた。あとはこの鍵をポストに入れるだけ。

青いカーペットの内廊下を歩く。足音はしない。どんなに力を込めて歩いても、クールでホテルライクな内廊下はそれを受け入れる。

SUUMOのおすすめポイントにも書いてあるはずだ。

「ホテルライクな内廊下。人生が崩壊しても足音は響きません」

この街は、希望に満ちているように見えた。でも実際は、希望は人間が部屋の中で作るものなんだ。

私は作れなかった。作れないまま、地獄にいた。2500万円を握りしめながら。

二度と押すことのないエレベーターのボタンを押した。

下。

部屋の値段だけが上がり続けていた。私たちは、ずっと下がっていたのかもしれない。

エレベーターには誰もいなかった。ドアが静かに閉まった。

二人で憧れたラグジュアリーなエレベーターホールが視界から消えた。

あとは、地面に向かって降りていくだけだ。

(了)

いかがでしたか? 同じ場面でも、視点が違うだけで見え方が変わると思います。

同じことを考えている場面も、全く違うことを考えている場面も書いてみました。見比べてみると、いろいろ発見があるんじゃないかと思います。

そして、夫はあの決定的な場面を覚えていないんですよね…。

■ 夫編はこちら ■

[https://x.com/PageTurner_and/status/2048182109903454378](https://x.com/PageTurner_and/status/2048182109903454378)

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