MIT、Stanford、UC Berkeleyなどの研究者が、1,891人から集めた1万8,000件以上のプロンプトを分析した実験があります。
その結果、新しい高性能モデルに変えたことで生まれた性能向上のうち、モデル自体の進化によるものは53%。残りの47%は、ユーザーが新しいモデルの能力に合わせて、指示の出し方を変えたことで生まれていました。
つまり、AIの性能は「どのモデルを選んだか」だけでは決まりません。
高性能なモデルを選ぶことと、その知能を自分の仕事に接続できることは、まったく別の技術です。
これは、GPT-5.6 Solを使ううえで特に重要です。
OpenAIはSolを、複雑な調査、設計、意思決定などに対応する旗艦推論モデルとして位置づけています。ですが、どれだけ推論能力が高くても、あなたの目的や前提、判断基準までは読み取れません。
「いい感じに考えて」と頼めば、Solは膨大な可能性の中から、もっとも無難そうな答えを選びます。
反対に、
・自分が何者なのか
・何を達成したいのか
・どんな条件を守ってほしいのか
・何を良い成果とみなすのか
が設定されていれば、同じモデルでも回答の解像度は大きく変わります。
多くの人は、毎月もっとも賢いAIに課金しながら、カスタム指示は空欄、メモリは未整理、依頼は一文だけ。
これは、優秀なコンサルタントを雇っておきながら、自社の状況を何も共有せずに「売上を伸ばしてください」と頼んでいるようなものです。
この記事では、GPT-5.6 Solの知能を「自分専用」に近づけるために、最初に見直したい3つの設定と、回答の質を変える依頼方法をまとめます。
難しいプロンプトテクニックは使いません。
一度設定すれば、その後のほぼすべての会話に効く内容です。あとで設定画面を開きながら試せるよう、この記事は保存しておくことをおすすめします。
記事の最後で、Claudeで高品質なスライドをを作れるデザインキットを配布しています。



なぜ「モデルを選ぶ」だけでは性能が出ないのか
まず、賢さがどこで決まるのかを揃えておきます。
GPT-Sol は、いま選べるいちばん賢い、じっくり考えるタイプのモデルです。でも、どれだけ賢い人でも「なんかいい感じにやっといて」と丸投げされたら、当たり障りのない答えしか返せません。地頭の良さと、引き出し方は別ものです。
僕がいろんな人の使い方を見ていて思うのは、差がつくのはモデルではなく、この「引き出し方」の側だ、ということです。
性能を決めるのは、次の3つを先に整えることです。ChatGPT に前提を覚えさせる(設定)。タスクに合わせてモデルを選ぶ。そして、頼み方に型を持つ。順にいきます。

初期設定①:カスタム指示は「自己紹介欄」ではなく、常設の業務マニュアル
最初に見直したいのが、カスタム指示です。
多くの人は、ここに「丁寧に答えてください」「簡潔に説明してください」とだけ書いています。
ですが、これは優秀な社員を採用した初日に、
「いい感じに仕事してください」
と伝えているのと、ほとんど変わりません。
OpenAIの公式ガイドでは、AIへの指示を設計するときに、
・Identity:どんな役割を担うのか
・Instructions:何を守るのか
・Examples:良い回答とは何か
・Context:判断に必要な前提情報
を分けて与える方法が紹介されています。
つまり、カスタム指示に入れるべきなのは、単なるプロフィールではありません。
ChatGPTに毎回適用する「仕事のルール」です。
たとえば、同じように、
「このX投稿を改善して」
と頼んでも、ChatGPTが知らないことは大量にあります。
・誰に読んでほしいのか
・何を売っているのか
・煽る表現は許されるのか
・投稿の目的は認知か、LINE登録か
・本人らしい文章とは何か
これらが分からなければ、ChatGPTは一般的なSNSノウハウをもとに、もっとも無難な投稿を返すしかありません。
反対に、次の前提をカスタム指示に入れておくと、同じ一文でも回答の方向性が変わります。
【そのまま使える設定例】
私は会社員として働きながら、XとnoteでAI活用について発信しています。
主な読者は、AIに興味はあるものの、仕事への取り入れ方が分からない会社員・個人事業主です。
回答では、次のルールを守ってください。
・最初に結論を伝える
・抽象論だけで終わらず、具体例を最低1つ入れる
・専門用語を使う場合は、初出時に短く説明する
・過度な煽りや、根拠のない断定は避ける
・X投稿では、冒頭のフックと読みやすい改行を重視する
・note記事では、主張→理由→事例→実践方法の順で構成する
・依頼内容が曖昧な場合は、勝手に埋めず、重要な前提を先に質問する
OpenAIの公式情報によると、カスタム指示は一度設定すると、既存の会話を含むすべてのチャットに反映されます。
さらに、PlusやProなどの対象プランでは、最大5,000文字まで登録できます。
毎回使う文章を長く書くための場所ではありません。
毎回起こる小さな認識のズレを、最初から消しておく場所です。
僕自身も、文章のトーンや発信テーマ、回答の構成を設定してから、「もう少し僕らしくして」「結論から書いて」という修正が減りました。
1回あたり数分の差でも、100回使えば大きな差になります。
カスタム指示は、ChatGPTの性能を一度だけ上げる設定ではありません。
これから行う、すべての会話の最低品質を引き上げる設定です。
初期設定②:メモリは「倉庫」ではなく、AIが参照する顧客カルテ
次に見直したいのが、メモリです。
ここで意外なのは、ChatGPTのメモリは、単に過去の会話を丸ごと保存している機能ではないことです。
OpenAIの説明では、現在のメモリは、過去のチャットなどから有用な情報を継続的に整理し、回答をパーソナライズするための「文脈」として使われます。
つまり、メモリは会話の保管庫というより、
ChatGPTがあなたについて参照する顧客カルテ
に近いものです。
カルテに正しい情報が入っていれば、毎回細かく説明しなくても話が通じます。
一方で、古い情報や、その場限りの情報が残っていると、まったく別の相談にまで影響することがあります。
たとえば、以前は会社員向けの商品を販売していた人が、現在は法人向けのAI支援に事業を変えたとします。
ところが、メモリに、
「会社員向けに副業ノウハウを発信している」
という古い前提が残っていれば、法人向けの提案資料を頼んでも、個人向けの柔らかい表現や、副業目線の提案が混ざる可能性があります。
AIの回答が微妙なとき、原因がプロンプトではなく、過去の自分の情報にあることもあります。
だから、メモリには何でも入れればよいわけではありません。
僕は、次の基準で分けるのがおすすめです。
メモリに残したい情報
・現在の職業や事業
・扱っている商品やサービス
・主な顧客層
・長期的な目標
・文章や回答の好み
・繰り返し使う判断基準
メモリに残さなくてよい情報
・今日だけ行う作業
・一時的なキャンペーン
・頻繁に変わる売上やフォロワー数
・締め切りや予定
・その場で思いついた仮説
・一時的な感情や迷い
たとえば、
「私はAI研修を法人向けに提供している」
は、しばらく変わらないならメモリ向きです。
一方で、
「今週金曜日までに研修資料を完成させる」
は、その会話やプロジェクト内だけで扱う方が適しています。
覚え方の基準は、シンプルです。
3か月後も前提として使ってほしいか。
YESならメモリ。
NOなら、そのチャットやプロジェクトだけに置く。
そして、定期的に次のように聞いてください。
「現在、私について記憶している内容を確認してください。古くなっている可能性がある情報と、重複している情報を分けて教えてください」
OpenAIの公式情報でも、メモリは設定画面から確認・修正・削除でき、Temporary Chatを使えば、既存のメモリを参照せず、新しいメモリも作らずに会話できます。
重要な商談前や、普段とはまったく違う役割で相談するときは、Temporary Chatを使うのも一つの方法です。
AIを賢くするために、情報を大量に覚えさせる。
これは半分正しく、半分間違っています。
必要なのは情報量ではありません。
現在の自分と一致した、正しい前提だけを残すことです。
初期設定③:モデルは「賢い順」ではなく、失敗したときの損失で選ぶ
設定を整えたら、次はモデルの選び方です。
ここで多くの人が勘違いしています。
もっとも高性能なモデルを常に選ぶことが、もっとも効率的な使い方とは限りません。
これは、社内のすべての仕事を、毎回役員会で決めるようなものです。
メールの件名を変えるために、経営陣を集める必要はありません。
一方で、新規事業に数百万円を投資するか決める場面を、担当者一人の即答で済ませるのも危険です。

モデル選びも同じです。
OpenAIは、GPT-5.5 Instantを日常的な質問に対する高速なモデル、GPT-5.6 Solを複雑な業務・調査・設計などに対応する推論モデルとして位置づけています。
GPT-5.6 Solには、Medium、High、Extra Highなど、考える深さを変える選択肢も用意されています。利用できる選択肢はプランによって異なります。
では、何を基準に選べばよいのか。
僕は、モデルの性能ではなく、
「この回答を間違えたら、どれくらい痛いか」
で選ぶのがおすすめです。
Instantで十分な仕事
・文章の言い換え
・誤字脱字の確認
・会議メモの要約
・アイデアのたたき台
・メール件名の候補出し
・既に決まっている内容の整形
たとえば、
「この文章を、意味を変えずに30%短くして」
という仕事です。
答えが少し違っても、すぐ確認して修正できます。
SolのMediumやHighを使いたい仕事
・事業戦略の比較
・複数の条件が絡む企画設計
・重要な営業資料の構成
・長い資料を読んだうえでの判断
・契約や制度に関する調査
・システムや業務フローの設計
・失敗した原因の分析
たとえば、
「この新規事業に投資すべきか、競合、市場性、自社の強み、初期費用、撤退条件の5つから評価して」
という仕事です。
単純な文章生成ではなく、複数の情報を同時に比較し、矛盾なく判断する必要があります。
Sol Proや深い推論を検討したい仕事
・長時間かかる複雑な調査 ・大量の資料を横断した分析 ・重要な経営判断のセカンドオピニオン ・複雑なコードベースの調査や修正 ・何度も検証が必要な設計
ただし、ここでもAIの回答をそのまま採用するのではなく、意思決定材料の一つとして使います。
モデル選びを迷ったときは、次の3問で判断できます。
- 間違った回答を採用した場合、損失は大きいか
- 複数の条件を同時に考える必要があるか
- 出力を自分ですぐ検証できないか
2つ以上当てはまるなら、Solを使う価値があります。
逆に、ほとんど当てはまらないなら、Instantで十分です。
おすすめは、すべてをSolに任せることではありません。
まずInstantで、
・論点を洗い出す ・下書きを作る ・選択肢を増やす
その後、重要な部分だけをSolに渡して、
・見落としを探す ・矛盾を検証する ・最終案を詰める
という二段構えです。
たとえば、ウェビナーの企画を作る場合。
最初にInstantで10案を出す。
その中から3案を選び、Solに、
「この3案を、集客力、権威性、成約へのつながり、実施難易度の4項目で比較してください。弱点も隠さず指摘してください」
と頼む。
こうすると、速さと深さの両方を取れます。
毎回もっとも賢いモデルを選ぶのではなく、
発散は速いモデル、判断は深く考えるモデル。
この役割分担ができると、待ち時間を減らしながら、重要な場面の回答品質を上げられます。
頼み方①:丸投げをやめて「型」で頼む
ここが本丸です。設定を整えても、頼み方が丸投げのままだと性能は出ません。
賢いモデルほど、前提が足りないと「それっぽいけど的外れ」を返します。だから、頼み方に型を持ちます。型は4つだけ。「誰として・私の前提・守ってほしい制約・どんな形で出すか」。

- ✗「副業でブログを始めるにはどうすればいい?」
- ◯(4つを埋める):
あなたは副業ブログの編集者です。私は会社員で、平日に使えるのは1日1時間。まだ何を書くか決めていません。AIと副業に興味があります。 この条件で、最初の1ヶ月にやることを、週ごとの ToDo にしてください。各週3つまで、専門用語は避けて。
返ってくる密度がまるで変わります。もう一例、仕事寄りで出します。
- ✗「この商品の紹介文を書いて」
- ◯:
あなたはコピーライターです。商品は、机の上が片付く木製のスマホスタンド、3,000円。買うのは在宅ワークの30代です。 「机が片付く」を軸に、120字の商品説明を3案。煽らず、誇張しない。それぞれ狙いを1行だけ添えて。
同じ商品でも、後者からしか「使える3案」は出てきません。
頼み方②:一発で完成を狙わず「先に質問させる」
型で頼んでも、まだ前提が足りないことがあります。そこで、もうひと手間。
賢いモデルには、着手する前に質問させます。これが Sol のような「考える」モデルで、とくに効きます。
このあと、採用面接で使う逆質問リストを作ってほしいです。いい成果にするために、先に私へ質問を5つしてください。答えたら着手して。
Sol は、足りない前提を的確に聞いてきます。応募先の業界は、面接の相手は役員か現場か、あなたが重視するのは何か。埋めてから作らせると、手戻りが目に見えて減ります。丸投げの一発勝負より、質問1往復を挟んだ方が、結局は速いです。
実演:ゼロから完成まで、Solで一本通す
言葉だけだと腹に落ちないので、ここまでを1本の流れにします。架空ですが、打つ言葉まで実物で書きます。
お題は「副業で始めた木製スマホスタンドを、X で告知する投稿を作る」。
- カスタム指示は設定済み(副業の前提と体裁が入っている)。だから毎回の説明は要りません。
- モデルは GPT-5.6 Sol を選ぶ。告知の一発目は外したくないからです。
- まず質問させる。
X で商品の告知投稿を作りたいです。まず私に5つ質問してください。答えたら着手して。
- Sol が聞いてくる。価格は、写真はあるか、狙う相手は、リンクは付けるか、トーンは真面目か砕けるか。答えます。
- 前提が揃ったので、本番を頼む。
今の回答を前提に、告知投稿を3案。各140字以内、改行で読みやすく、最後に一言フックを。煽らないで。
- 気に入った1案を、さらに詰める。
2案目を採用します。もっと「机が片付く」情景が浮かぶ言い回しに。絵文字は使わないで。
思いつきの丸投げでは出てこない、そのまま貼れる投稿まで、一本で辿り着きます。断片的な「こう頼むといい」の寄せ集めではなく、この流れをそのまま真似れば動きます。
まとめ
- Sol の性能は「モデル選び」より「設定と頼み方」で決まる
- カスタム指示に前提を一度書く。メモリには変わりにくい事実だけ貯める
- 何でも Sol にしない。外したくない一手にだけ Sol を使う
- 丸投げをやめ、「誰として・前提・制約・出力形式」の型で頼む
- 賢いモデルほど、着手前に質問させると外さない
この設定を知らないままだと、いちばん賢いモデルに毎月課金しながら、初対面の相手に丸投げし続けることになります。設定を一度整えて頼み方を変えるか、今日も「いい感じにやっといて」で薄い答えをもらうか。分かれ目は、ここです。
今日からできる1ステップ:ChatGPT の設定を開いて、カスタム指示に「あなたの副業の前提」と「曖昧なときは先に質問して」の2つを入れる。次の1往復から、返ってくる中身が変わります。
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