1991年から2002年にかけて『LaLa』(白泉社)で連載された異世界ファンタジーマンガの傑作『彼方から』。連載開始から約35年が経った今でも多くのファンに愛される本作が、ついにTVアニメ化を果たす。
そこで今回は本作のアニメ化に携わる監督・阿部記之氏、プロデューサー・吉田雄哉氏、シリーズ構成・たかすぎ梨香氏、キャラクターデザイン・安彦英二氏の4名にインタビューを実施。原作に対する想いやアニメ制作の裏側について、さまざまな目線から語ってもらった。
4回目のインタビューではアニメ制作現場の裏側に迫るため、「ここに一番こだわった」という部分を各スタッフに尋ねている。そこでとりわけ印象的だったのは、アクションパートと恋愛パートのバランスを取ることの難しさだ。
『彼方から』は不思議な力の使い手が多数登場する世界観で、派手なアクションを伴ったバトルシーンが次々と展開していく。しかし話の軸はあくまで典子とイザークの繰り広げる恋愛模様となっている。2つの要素を上手く描くことが、アニメ化の成功には不可欠だ。
また今回は、原作者・ひかわきょうこ先生とのやりとりをより具体的に掘り下げている。そこで浮上したのが、“光と闇の概念”の話だった。『彼方から』の作中世界は光の力と闇の力がせめぎ合っているようなイメージで、典子たちはその渦中にあって自分の進むべき道を見定めようとする。
アニメスタッフはこの壮大な世界観について、ひかわ先生からどんな説明を受けたのか。そしてそれをいかにして作品へと落とし込んでいったのか……。今回語られた話は、本作のアニメ化においてかなり重要なポイントとなっているはずだ。
◯各スタッフが明かすこだわりポイント……アクションと恋愛をいかにして両立させるか
──次は制作現場の裏側について伺っていきたいと思います。みなさんのなかで「制作中ここに一番こだわった」という部分はありますか?
吉田:企画した立場としては、できるだけ原作ファンの方が納得する作品を作れたらいいなと思っています。阿部監督やたかすぎさん、安彦さん、スタジオの関係者のご尽力でそれを実現できるよう頑張っています。
──たかすぎさんはいかがでしょうか?
たかすぎ:尺の都合上、話をある程度凝縮しなければいけなかったのですが、ダイジェストにはしたくない……という葛藤がありました。そこで何を削れば原作の雰囲気を損なわず、同じ流れのまま短くできるのかという点にはすごくこだわっています。それでもシナリオ段階ですべて調整することはできなかったので、絵コンテや演出で工夫していただいたんじゃないかと思います。
セリフの面で言えば、いつも同じベクトルを向いているキャラクターの場合、上手く強弱を付けないと「この人はこれくらいのことしか言わないんだね」と視聴者に思われてしまいます。そのため原作から外れていると思われない範囲で、強弱を上手く付けたいと考えていました。
──セリフに強弱を付けるというのは面白い考え方ですね。同じようなことしか言わないキャラクターだと視聴者に思わせないため、工夫を凝らしていることがよく分かります。ではシナリオだけでなく、制作全体を統括する阿部監督としては、一番こだわった部分はどこでしょうか。
阿部:画面の表現としては“少女マンガらしさ”を大切にしています。とくに典子とイザークの感情がぶつかり合っているところなどは、原作のふわっとした描き方を意識して、色味も含めてやさしい感じにしたいと思っています。いまはまだ作っている途中なので、試行錯誤を続けているのですが……。
あとはアクションシーンがとても多いので、そことのバランスですよね。一番見せたい部分は典子とイザークの関係なのですが、比重としてはアクションシーンが圧倒的に多くなります。それにひかわ先生はアクションの殺陣やエフェクトを緻密にしっかりと描いているので、そこの部分で力を抜くわけにはいきません。でもあまりそちらに振りきると、男の子向けのアニメに寄っていくので、それはそれでこの作品らしさがなくなってしまいます。
──たしかに『彼方から』は異能バトルのような派手なアクションシーンと平行して、典子とイザークの恋愛模様が進行していくという構造になっています。この2つの要素を絶妙なバランスで両立させるのは、難易度が高そうですね。
たかすぎ:私も最初は原作が少女マンガだから、各話シナリオは女性のライターさんにお願いするのが良いだろうなと思っていました。でも自分でシナリオを書いてみたら、アクションシーンを書けるライターさんが必要だと感じるようになりました。
登場人物のキャラクターや気持ちも、アクションも、どちらも描ける方に参加してほしかったんです。だからライターさんにお願いするにあたってはすごく悩みましたが、最終的にはバランスの良い布陣になったと思っています。
◯長期間のディスカッションも……原作者・ひかわきょうこ先生とのやりとりを深掘り
──では今作のアニメ化にあたって、もっとも苦労した部分はどこですか?
吉田:記憶を遡ると、今作ですごく苦労したのは冒頭の描写でした。マンガではさらっと流して伝わる部分ですが、アニメでどう表現するのか。光と闇の関係性をしっかり描かないと、視聴者は何を見せられているのか分からなくなりますよね。あと“異世界に転生したら言葉が通じなくなる問題”についても、ひかわ先生に助言を仰ぎながら進めたので、それだけで数カ月かかりました。なかなかシナリオの1話目に着手できなかったのを覚えています。
そこをひかわ先生とディスカッションさせていただいた結果、誰もが納得する形に着地して、いま制作を進められているなと感じています。
──ひかわ先生とのやりとりについて、もう少し詳しく伺いたいです。具体的にどんなことを相談しながら、制作を進めていったのでしょうか?
阿部:たとえば作中にたくさんキャラクターが出てくると、アニメでは捌ききれなくなるので、人数を少し減らした方が見やすいかもしれませんと提案したことはありましたね。それに対してひかわ先生は、「言っていることは分かるけど、やっぱりキャラクターを省きたくはない」とおっしゃられたので、作品に対する想いの強さを実感しました。
昔とは違って、今の時代は原作ファンの方が観て納得できるような作りにすることが何より大切なので、なるべく原作を活かすことを目指しています。もちろんアニメ化にあたって尺は調整しなければならないし、僕らなりにこうした方がいいだろうという部分もあるのですが、最大限原作を尊重していると思います。
──これまでも何度か話に出てきましたが、“光と闇の概念”は『彼方から』という物語の土台となる設定ですね。ひかわ先生からはどんな説明があったのでしょうか。
吉田:たかすぎさんがいざシナリオに落とし込もうとなったとき、光と闇の概念がすごく難しいという課題に突き当たりました。それでひかわ先生に対して「どういった概念で描いた世界なんですか」とお尋ねしたところ、すごく長文で答えてくださったんです。ただ、今度はそれをアニメで表現するときにどうしようかということで、2カ月くらいディスカッションをしました。
たかすぎ:そうですね。占者は何を受け取っているのか、光の声なのか闇の声なのかなど、世界観の設定について色々なことを詳細に説明していただきました。
吉田:とくに光側の設定が難しかった気がしますね。
たかすぎ:闇側は人間に干渉してくるんですが、光側はほとんど干渉してこない。そのほかにもSF的な観点で色々なお話を伺ったのですが、難しい話になりすぎるとアニメでは捌ききれなくなるので、どれくらい分かりやすくしていくかということが課題になっていましたね。
吉田:もしかしたら、『彼方から』がこれほどの名作なのにアニメ化されてこなかったのは、アニメにするのが難しかったからなのかなとも思いました。
たかすぎ:どうなんでしょうね。「星雲賞」を受賞されるくらいSF的な部分が評価されているので、設定面で間違ってしまうと大変だということがあったのかもしれないですね。
※『彼方から』は2004年にSF作品のアワードである「星雲賞」のコミック部門を受賞。
<第5回に続く>





