「AIに雑用をさせるな」
この一言を聞いたとき、正直、意味がわかりませんでした。
AIに雑用をさせるのが、いちばん手っ取り早い使い方じゃないのか。メールの下書き、議事録の要約、資料の体裁直し。そういう面倒な作業を減らすために、AIはあるんだと思っていました。
でも、深津貴之さんの話を追いかけていくと、景色がまるで変わります。
note株式会社CSO(最高戦略責任者)。THE GUILD CEO。弁護士ドットコムCXO。横須賀市AI戦略アドバイザー。
noteの会員数は1,248万人。公開コンテンツは8,209万件を超えています。直近上半期の売上は、3年前の同時期と比べて1.9倍。従業員ひとりあたりの売上は2.3倍。AI経由の流入は、検索からの予測値の約4倍に達しています。
この数字の裏側で、深津さんは何をやってきたのか。
結論から言います。
深津貴之は、AIに仕事を任せていません。AIに、人間を育てさせています。
この人がAIを語る資格
「UXデザイナーでしょ?」と思った方もいるかもしれません。
たしかに、深津さんのキャリアはデザインから始まっています。Flashコンテンツの制作会社thaを経て、Art&Mobileを設立。THE GUILDを立ち上げ、iPhoneアプリのUI設計で名を知られるようになりました。
でも、2022年からnoteが経営の軸をAI領域に振り切り、その先頭に立っていたのが深津さんです。CXO(最高体験責任者)として入社し、2026年7月にCSO(最高戦略責任者)へ。肩書きが変わったこと自体が、noteにおけるAIの位置づけの変化を物語っています。
結果が、冒頭の数字です。売上1.9倍。従業員ひとりあたり売上2.3倍。ページビュー前年同期比1.4倍。
著書も2冊。2024年8月に日経BPから『ChatGPTを使い尽くす!深津式プロンプト読本』。2026年5月にNewsPicksパブリッシングから『メタスキル』(けんすう、尾原和啓との共著)。
noteの中だけにとどまりません。弁護士ドットコムのCXO。横須賀市のAI戦略アドバイザー。武蔵野美術大学の客員教授。ZEN大学の客員講師。
デザイナーから始まり、AIで組織の数字を変えてきた人。その手法を、7つに分解します。
手法① 深津式プロンプト——4つの要素で、AIの出力が変わる
AIに指示を出すとき、「なんかいい感じに作って」と書いていませんか。
深津さんが公開した「深津式プロンプト」は、たった4つの要素で成り立っています。
命令書(あなたは〇〇です)
制約条件(箇条書きでルールを並べる)
入力文(処理してほしいテキスト)
出力文(AIが生成する結果の枠)
たとえば、会議の議事録を作りたいとき。
あなたは企業の秘書担当です。以下の制約条件と入力文をもとに、簡潔かつ網羅的な会議議事録を作成してください。制約条件:見出し・発言者・要点を分けて記載。議論の流れがわかるよう時系列順に構成。各発言は300文字以内で要約。
こう書くだけで、AIは「何の専門家として」「どんなルールで」「何を処理するか」を一度に把握できます。
この型は2023年にnoteの記事として公開されてから、企業、自治体、個人まで広く使われるようになりました。著書『深津式プロンプト読本』(2024年8月、日経BP)としても書籍化されています。
プロンプトの精度を上げたいなら、まずこの4要素を押さえるところから。遠回りが一気に減ります。
手法② AIを「師匠」にする——業務ではなく、人間の成長に使う
これが「AIに雑用をさせるな」の正体です。
深津さんは、AIと企画の壁打ちをするとき、こう書きます。
「私が将来、中長期で考えてすばらしい企画を立てられる人間になるように、至らないところを教えてくれたり、育てたりしながらやってください」
企画を出してもらうのではありません。企画を出せる人間に成長するために、AIを使っています。
「師匠」「先生」「ヨーダ」「アバン先生」。こうした役割をAIに与えると、答えをそのまま返すのではなく、考え方の穴や、問いの立て方の弱さを指摘してくれます。
深津さんの言葉をそのまま借ります。
「多くの方は業務を遂行するために生成AIを使っている。でも、人間を成長させるために使ったほうが効率がいい」
AIに企画書を書かせれば、今日の企画書は完成します。でもAIに鍛えてもらえば、明日からの企画書が全部変わる。
正直に言うと、僕はこれを知るまで、深津式プロンプトの「型」を覚えて満足していました。4つの要素を埋めれば出力が良くなる。それだけで十分だと思っていた。でも深津さんが本当に伝えたかったのは、型を超えた先にある「AIとの向き合い方」のほうだったんだと、後から気づきました。
手法③ 「経営者をAIにすべき」——忖度のない社外取締役
カスタマーサポートのAI化で、年間数十万円のコストが浮く。
社長の一度の判断ミスで、数千万円から数億円が消える。
深津さんは「中小企業において最もリスクが高いのは、実は経営者による直感的・独断的な判断だ」と言い切ります。
具体的にどうするか。
経営会議にAIを参加させます。議事録をテキスト化してAIに読み込ませ、「議論すべきなのに放置されている課題はないか」と問いかける。エビデンスに基づかない「勢い」での決定を指摘させる。毎月の試算表をAIに分析させて、資金繰り悪化の予兆や、価格転嫁の必要性をタイムリーに察知させる。
AIを、忖度のない社外取締役として機能させる。
深津さんはこの差を「作戦級」と「戦略級」という言葉で分けています。挨拶メールの自動作成は作戦級。経営の意思決定の質を上げるのが戦略級。多くの会社が取り組んでいるのは作戦級です。
でも、社長が勢いで変なビルを建てたり、デューデリジェンスの不足のまま企業買収に動いたりするのを止めるほうが、投資対効果は桁違いに高い。
手法④ Googleカレンダー連携の秘書AI——会議15分前に、相手の最新情報が届く
深津さんが実際に動かしている仕組みです。
Googleカレンダーに登録された予定から会社名を自動で検出し、ミーティングの15分前に、その企業の最新ニュース・プレスリリース・直近の動きをレポートにまとめて自動で差し込んでくれます。
ツールはDify、Zapier、Python、Google Apps Scriptなどを場面に応じて使い分けているとのこと。
「あの会社、最近なにかあったっけ」と検索する時間がゼロになる。相手の最新状況を頭に入れた状態で会議に入れるので、話の質が変わります。
手法③の「戦略級AI」を日常に落とし込むと、こういう形になります。やっていることは地味です。でも、1日に会議が5回あるなら、5回分の事前準備が自動で終わっている。地味なものほど、積み重なったときの差が大きい。
手法⑤ メタスキル——AIの前に、人間の「上位スキル」を鍛える
2026年5月に出版された『メタスキル』(NewsPicksパブリッシング)。深津貴之さん、古川健介さん(けんすう)、尾原和啓さんの共著です。
メタスキルとは、「どのタスクをAIに渡すか」「AIに何を聞くか」を決める力のこと。AIそのものの使い方ではなく、AIを使う人間の側に必要な力です。
3人の著者がそれぞれ異なる流派を持っていて、深津さんの流派は「死なない構造設計」。リスクを最小化しながら、長期的に勝ち残る構造を先に設計する、という考え方です。UIデザイナーとして数多くのプロダクトに関わってきた経験から、「壊れない仕組み」を先に作り、その上でAIを走らせるという順番にたどり着いています。
プロンプトの書き方を覚えるのは大事です。でも、それは「作戦」。どこにAIを置くか、何をAIに任せないかを決めるのが「戦略」。深津さんはその戦略を設計する力に「メタスキル」という名前をつけました。
プロンプトは、AIの進化とともにいずれ不要になるかもしれない。でも「壊れない仕組みを設計する力」は、AIがどれだけ賢くなっても残り続けます。
手法⑥ AIエージェント——チャットを超えて、自律的にゴールまで走らせる
深津さんは、AIが「1対1のチャット」から「自律的にゴールまで走るエージェント」へ進化していることに注目しています。
たとえば、「世界中のトップブランドのトレンドを調査して、相性のいいブランドを抽出して、提案メールを作成して、アポを取る」。この一連の流れを、AIが自律的に判断しながら実行する。
特に深津さんが強調するのは、数が成果に直結する仕事との相性です。100万件の営業リストに、1件ずつ個別の文面でメールを送る。人間には不可能でも、エージェントには可能です。
一方で、「人間と機械が交互にボールを渡し合うフロー」は相性が悪い、とも明言しています。待ち時間や確認作業が挟まると、自律性が活かせない。
深津さんがこの文脈でよく語るのが、地方の中小企業の話です。町工場が、AIエージェントを通じて世界中のブランドに提案を送れる。言語の壁も、距離の壁も消える。「地方の中小企業と生成AIこそ、めちゃくちゃ相性がいい」。
手法⑦ プロアクティブAI——「お願いする前に、もう終わっている」
深津さんが2026年の展望として語っている概念です。
従来のAI活用は「人間が困る → AIに聞く → AIが答える」。この順番が変わります。
人間が「困った」と認識する前に、AIがバックグラウンドで対応を完了させている。
手法④のカレンダー秘書AIは、その入り口です。会議の15分前に情報が届くのは便利ですが、それでもまだ「人間が予定を登録する」という前提があります。その先には、予定の登録すら不要になる世界がある。
深津さん自身、「僕の仕事を代わりにやってくれるAIを2026年に実験したい」と語っています。まだ完成形ではないと、本人が認めている。でも、向かっている方向は明確です。AIが「頼まれて動く」から「頼まれる前に動く」へ。
これは遠い話ではなくて、すでに手法④で入り口が見えています。「困ったから聞く」のステップを一つ飛ばせるかどうか。深津さんの7つの手法を追いかけてきた人には、それが次の一手になります。
まとめ
深津貴之さんの7つの手法を、もう一度並べます。
- 手法① 深津式プロンプト(4要素でAIの出力精度を上げる)
- 手法② AIを「師匠」にする(業務ではなく、人間の成長に使う)
- 手法③ 経営者をAIにすべき(忖度のない社外取締役として)
- 手法④ カレンダー連携秘書AI(会議15分前の自動レポート)
- 手法⑤ メタスキル(AIの前に、人間の上位スキルを鍛える)
- 手法⑥ AIエージェント(自律的にゴールまで走らせる)
- 手法⑦ プロアクティブAI(お願いする前に終わっている)
7つに共通しているのは、AIに仕事を渡すのではなく、AIで「人間の判断」を変えているということです。
プロンプトの型を覚えて終わりではない。型の先に、自分を育てる使い方がある。作業を消す前に、経営の判断を変える使い方がある。ツールを1つ動かす前に、「どこに何を置くか」を設計する力がある。
「AIに雑用をさせるな」。この一言の重さが、7つを見終わった今なら、最初とは違って聞こえるはずです。
もし今日から1つだけ試すなら、手法②です。次にAIと話すとき、「答えを出して」の代わりに、「僕の考えの甘いところを指摘して」と書いてみてください。返ってくる言葉の質が、まるで変わります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
最後に、ひとつだけ。
今日の話は「AIの使い方を、設計者の視点で見直す」ところまででした。ただ、この先には「仕事の8割をAIに任せる形」まで続きがあります。ハッキリ言います。そこまでは、記事1本では書き切れません。
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- AI用語解説①|基本編(生成AI・プロンプト・ハルシネーション——AIそのものの言葉20)
- AI用語解説②|Claude Code・Codex編(ターミナル・スキル・パス——毎日触る画面の言葉20)
- AI用語解説③|連携・ツール編(API・MCP・.env——自動化でぶつかる言葉20)
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参考文献
- 「従業員より経営者をAIにすべき」深津氏が語る、2026年の生成AI展望と地方中小企業の活用戦略(クラウドサイン)
- 生成AIを"業務のために使う"より、もっと効率のいい方法 深津貴之氏が語る、AIのビジネス活用法(ログミーBusiness)
- note、深津貴之がCSO(最高戦略責任者)に就任(PR Times、2026年7月7日)
- noteはAI時代の「コンテンツ流通インフラ」になる(note株式会社、2026年8月6日)
- 深津式プロンプトとは?テンプレートや7つの実例、応用ポイントを解説(SHIFT AI TIMES)
- 『メタスキル——努力の価値が変わる時代の「AI×自分」戦略』深津貴之・古川健介・尾原和啓(NewsPicksパブリッシング、2026年5月18日)
- 『ChatGPTを使い尽くす!深津式プロンプト読本』深津貴之(日経BP、2024年8月)





