資料作成が遅い人ほど、最初にPowerPointを開きます。
白紙のスライドを眺め、タイトルを置き、図形を動かしながら「何を伝えるか」を考える。これでは、思考と構成とデザインを同時に進めることになります。時間がかかるのは当然です。
元ゴールドマン・サックスの田中渓さんが実演した方法は、順番がまるで違います。
音声で思考を出す。
Claudeで論理を組む。
Marpでスライドに変える。
これが全体像です。
この記事では、田中さんの実演とインタビューをもとに、次の内容まで使える形に落とし込みます。
・「90%時短」と紹介された資料作成フロー
・速さを生む、田中さんの「型」の正体
・音声メモから資料を作るコピペ用プロンプト3本
単なるツール紹介ではありません。資料を作る順番そのものを入れ替える仕事術です。
田中渓のAI資料作成が異常に速い理由
結論から言うと、田中さんは資料を1枚ずつ作っていません。
先に自分の頭の中にある情報をまとめて外へ出し、AIに構造と形式を変換させています。
田中さんはゴールドマン・サックスに17年間勤務し、投資部門の共同責任者を務めた人物です。現在の投資業務では、AIをリサーチ、仮説構築、意思決定支援、資料作成に使っていると語っています。
インタビューでは、以前は3週間ほどかかった複雑なリサーチと資料作成が、AIとの組み合わせで1時間程度になったと説明しています。
また、A4用紙5枚分ほどのアイデアを約2分で話し、AIに文字起こしと整理を任せる使い方も明かしています。
出典:The Keyperson「田中渓」
https://thekeyperson.biz/interview/tanakakei/
さらに、株式会社デジライズの動画では、田中さんがClaudeとMarpを使った資料作成を実演しています。動画タイトルで掲げられたのが「90%時短」です。
出典:チャエン【AI研究所】「元ゴールドマン投資部門日本トップが実演!90%時短を実現するAI仕事術」
https://www.youtube.com/watch?v=C5qAt69rA54
ここは誤解しないでください。
90%は、すべての人、すべての資料で再現できると保証された数字ではありません。田中さんの経験、頭の中にある判断基準、AIに渡せる情報量まで含めて成立した実演です。
では、普通のビジネスパーソンには真似できないのか。
そんなことはありません。完成速度そのものではなく、工程の分け方なら今日から真似できます。
天才性の正体は「自分の型」をAIに渡すこと
田中さんの使い方で最も参考になるのは、AIにゼロから考えさせていない点です。
田中さんは、自分が仕事で使ってきた分析や資料の型をAIに学習させ、リサーチ結果や自身の仮説を入力して、必要な形式へ変換させていると説明しています。
つまり、人間とAIの分担はこうです。
人間が担当するもの:目的、仮説、判断、経験、違和感、最終確認
AIが担当するもの:文字起こし、分類、要約、並べ替え、翻訳、形式変換
この境界線が、速さと品質を両立させます。
よくある失敗は「いい感じの提案資料を作って」とAIへ丸投げすることです。
これでは、見た目は整っていても中身が薄くなります。AIには、その会社で何が争点なのかが見えません。上司がどこに反対するのか、顧客が何を恐れているのかも分かりません。
田中さんの方法は逆です。
頭の中にある専門知識と仮説は、人間が音声で出し切る。その素材を、AIが読める論理へ変換する。見た目を整えるのは、さらに後です。
速さの正体は、入力速度だけではありません。
「考える」「並べる」「見せる」を分離したことにあります。
STEP1 PowerPointを開く前に、音声で素材を出す
最初にやることは、スライド作成ではありません。資料に入れるべき材料を、音声で話します。
文章としてきれいに話す必要はありません。途中で言い直しても、順番が前後しても大丈夫です。大切なのは、AIが勝手に補えない判断材料を出すことです。
最低限、次の6点を話してください。
・この資料を誰に見せるのか
・相手に何を決めてほしいのか
・自分が最も伝えたい結論は何か
・結論を支える事実や数字は何か
・想定される反対意見やリスクは何か
・資料を見た相手に次に何をしてほしいのか
たとえば社内の新規企画なら、こんな話し方で十分です。
「営業チームの責任者に、新しい顧客管理方法の試験導入を承認してもらう資料。結論は、一部のチームで4週間試すこと」
「現状は担当者ごとに記録方法が違い、引き継ぎに漏れが出ている。反対意見は、入力作業が増えることと、現場が使わなくなること」
「入力項目を絞り、試験後に継続を判断する形にしたい」
この段階ではデザインを考えません。順番も整えません。判断に必要な素材を、できるだけ多く外へ出します。
STEP2 Claudeに「要約」ではなく「論点整理」を頼む
音声を文字起こししたら、いきなりスライドにしないでください。
先に、目的、主張、根拠、反対意見、不足情報へ分解します。ここで論理の穴を見つけておくと、見た目だけ立派な資料になるのを防げます。
以下は、田中さんが公開したプロンプトの引用ではありません。公開されている仕事の進め方を、一般の資料作成で使える形に再構成したものです。
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あなたは、意思決定用資料を設計する編集者です。
以下は私が音声で話した資料の素材です。まだスライドにはせず、内容を次の順で整理してください。
- 資料の読み手
- 読み手に決めてほしいこと
- 結論となるキーメッセージ
- 結論を支える根拠
- 想定される反対意見とリスク
- 不足している事実・数字・確認事項
- 読み手に求める次の行動
ルール:
・入力にない事実や数字を作らない
・曖昧な箇所は推測せず「要確認」と書く
・論理が飛んでいる箇所は、その理由を指摘する
・似た内容はまとめる
・結論と関係の薄い内容は「削除候補」に分ける
音声の文字起こし:
[ここに文字起こしを貼る]
▲ここまで
出力を受け取ったら、「要確認」と「論理の飛躍」だけは人間が埋めます。
この一手間が効きます。AIは、間違った内容でも読みやすく整えられるからです。数字、引用、固有名詞、因果関係は、きれいなスライドにする前に確認してください。
STEP3 1枚1メッセージのストーリーに変える
論点がそろったら、次にスライドの順番を作ります。
ここでのコツは、見出しを「項目名」にしないことです。
「背景」「課題」「提案」という見出しだけでは、何を言いたいスライドなのか分かりません。「顧客情報が分散し、引き継ぎ時の確認作業が増えている」のように、見出しだけで結論が伝わる形にします。
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先ほど整理した内容を、意思決定者向けのスライド構成に変換してください。
目的:短時間で内容を理解し、判断できる資料にする
枚数:8〜12枚を目安に、内容に合わせて調整
各スライドを次の形式で出してください。
スライド番号:
メッセージ見出し:そのページで伝える結論を1文で
本文:見出しを支える要点を最大3つ
根拠:必要な数字・事実・引用
図解案:比較、時系列、因果関係、手順など
確認事項:根拠が不足している箇所
構成ルール:
・1枚につき1メッセージ
・最初の3枚で、結論、理由、求める判断を示す
・反対意見とリスクを隠さない
・入力にない数字や事実を追加しない
・同じ主張を別の言葉で繰り返さない
・最後は次の行動で終える
▲ここまで
このプロンプトの目的は、文章を短くすることではありません。
「相手が何を知れば、判断できるか」という順番に並べ替えることです。
投資委員会向けなら、案件の背景、収益性、下振れリスク、価値向上策、撤退条件などが論点になります。
営業提案なら、顧客の現状、放置した場合の不都合、提案内容、導入根拠、実行手順です。
社内企画なら、目的、現状、選択肢、推奨案、リスク、承認してほしい事項へ置き換えられます。
業種が違っても、「誰に、何を判断してもらうか」を中心にすれば応用できます。
STEP4 ClaudeでMarp形式へ変換する
ストーリーが固まった後で、初めてスライドの形式に変えます。
Marpは、Markdown形式の文章からスライドを生成できるオープンソースの仕組みです。公式サイトによると、HTML、PDF、PowerPointへ出力できます。
出典:Marp公式サイト
田中さんの実演でClaudeとMarpが組み合わされている理由は明快です。
スライドを図形の集まりではなく、編集可能なテキストとして扱えるからです。順番の変更、見出しの修正、ページの追加をまとめて指示できます。
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以下のスライド構成を、Marpで表示できるMarkdownに変換してください。
設定:
・themeはdefault
・ページ番号を表示
・16:9
・1枚1メッセージ
・見出しは短く、結論が伝わる文にする
・本文は1枚につき最大3項目
・文字量が多い場合は、文字を小さくせずページを分ける
・図解が必要なページには「図解案:」をコメントとして残す
・入力にない数字、事実、出典を追加しない
・根拠が未確認の箇所には「要確認」と表示する
スライド構成:
[ここにSTEP3の出力を貼る]
▲ここまで
出力されたMarkdownをMarp for VS Codeなどで開けば、スライドとして確認できます。
ただし、生成された時点では完成ではありません。会社指定のテンプレート、フォント、配色、ロゴ、機密情報の扱いは、所属組織のルールに合わせて調整してください。
速く作るほど、人間の確認が重くなる
AI資料作成で最も危険なのは、間違いがきれいに整うことです。
文章が自然で、レイアウトも整っていると、内容まで正しいように見えます。しかし、AIは入力にない数字を補ったり、弱い根拠から強い結論を作ったりすることがあります。
完成前に、最低でも次の項目を確認してください。
・数字は元資料と一致しているか
・引用は実在し、文脈が変わっていないか
・事実と仮説が混ざっていないか
・グラフの軸、単位、期間は正しいか
・顧客名、個人情報、未公開情報を外部サービスへ入力していないか
・提案のリスクと反対意見を隠していないか
特に機密情報は注意が必要です。所属先が許可していないAIサービスへ、顧客情報や未公開の財務情報を入力してはいけません。匿名化した素材を使うか、会社が承認した環境を利用してください。
田中さんの方法は、AIに判断を丸投げする技術ではありません。
人間が判断の材料を出し、AIが変換を担い、最後に人間が事実を確かめる。だから速くても、仕事として成立します。
普通の資料作成に落とすなら、この4工程でいい
田中さんと同じ投資経験がなくても、工程は真似できます。
1.3〜5分、資料の目的と主張を音声で話す
2.文字起こしをClaudeへ渡し、論点と不足情報を整理する
3.1枚1メッセージの構成を作り、Marp形式へ変換する
4.数字、出典、機密情報、最終判断を人間が確認する
最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。
明日作る資料を1本だけ選び、PowerPointを開く前に3分話してください。
誰に見せるのか。
何を決めてほしいのか。
自分の結論は何か。
根拠は何か。
反対されるとしたら、どこか。
その文字起こしを、最初のプロンプトへ貼ります。
田中渓さんの天才AI資料作成術の本質は、ClaudeやMarpを使うことだけではありません。
人間にしか出せない判断を先に出し、AIが得意な変換作業を後ろへつなぐことです。
資料作成を速くしたいなら、スライド操作を急ぐ必要はありません。
作る順番を変える。そこから始めてください。





