「これって、うちだけなんでしょうか」
家を探し始めたご夫婦から、本当によく聞く言葉です。
共働きで、ふたりともちゃんと働いている。
それなのに、気に入った家の値段を見ると、とても手が出ない。
「私たちの収入が、少ないんでしょうか」
そう聞かれるたびに、いつもお伝えしています。
それは、あなたたちのせいじゃありませんよ、と。
どういうことかというと.....
その「足りない」、責める相手が違うかもしれません
「うちの収入が、足りないのかな」
そう感じている人が、本当に多いです。
でも、それはたぶん、違います。
正確に言うと、責める相手を間違えている。
足りないのは、あなたたちの収入じゃないんです。
家が買えないのは、あなたのせいじゃない
数字を見るとその理由がよくわかります。
首都圏の新築マンションは、2026年の上半期、平均で1億円を超えました。半年の平均が1億を超えたのは、初めてです。
バブルのころ、1990年の東京23区の新築マンションは、平均6,220万円でした。
当時ですら「高すぎる」「もう普通の人には買えない」と言われた価格です。
今は、その倍近くまで来ています。
首都圏は極端ですが、これは都会だけの話じゃありません。
全国でも新築マンションは平均5,900万円ほど、戸建ても調査開始以来の最高値。
程度の差はあれ、同じ流れが全国で起きています。
かつては地方の住宅市場の主役だった、年収500万円台の共働き世帯が、いまや「家を買う側」からこぼれ始めている、とも言われます。
これは、一部の特別な人の話じゃない。
まじめに働く、ごく普通の家庭に起きていることです。
いっぽうで、働く人の給料はどうか。
物価の上昇を差し引いた「実質賃金」は、2025年度まで4年連続でマイナスでした。
額面のお給料は上がっても、物価の上がり方に追いついていない。
2026年に入って少し持ち直しましたが、この秋以降、また水面下に沈むかもしれないと言われています。
やっかいなのは、額面の給料は増えていること。
数字だけ見ると上がっているから、「増えてるのに買えないのは、うちのやりくりが下手なのかな」と、また自分を責めてしまう。
でも、増えた額面以上に、物価と家の値段が上がっている。
物価の上がり方まで考えると、実際に使えるお金は、むしろ減っているくらいなんです。
ここを、取り違えないでください。
つまり、家の値段は1億円に届くほど上がったのに、みなさんの手取りは、それにまったく追いついていない。
しかも、価格が上がっている理由は、建設費の高騰、職人さんの不足、都心の土地の希少性、そして海外マネーの流入です。
どれも、みなさんが毎日がんばって働いていることとは、まったく関係のない話です。
家が買えないのは、みなさんの収入が少ないからじゃありません。
家の値段が上がるスピードに、お給料のほうが追いつけていない。
ただ、それだけなんです。
だからうちだけの問題、ではないんです。
同じ世帯年収でも、10年前・20年前に買えた家と、今買える家は、まるで違います。
収入は変わっていないのに、同じお金で買える家が、ひとまわりもふたまわりも小さくなった。
みなさんの努力が足りないんじゃなくて、家の値段だけが、どんどん先に上がっていっただけなんです。

「でも、周りは普通に買ってるよね?」
ここで、もやっとする人もいると思います。
「そうは言っても、友だちも同僚も、普通に家を建ててるけど…」と。
でも、その普通に買えてるように見える人の中身は、たいてい、こんな感じです。
親から数百万〜1,000万円の援助を受けている。
どちらかが、かなりの高収入。
あるいは、無理を承知で目一杯まで借りている。
もしくは、あなたが選ばないようなエリアで買っている。
SNSに並ぶ新築の写真は、その裏側までは映してくれません。
だから「うちだけ買えない」と感じてしまうけど、実際は、多くの家庭が、みなさんと同じところで立ち止まっています。
ぼくの相談でも、「高すぎて買えないのは、うちだけなんでしょうか」という声を、本当によく聞きます。
うちだけじゃないんです。
ただ、ここで安心して終わると、危ないんです
「そっか、時代のせいか」
そう思って、ほっとした人もいるかもしれません。
気持ちはわかります。
でも、ここで終わってはいけないんです。
「時代のせい」は、事実です。でも、それだけでは、1円も解決しません。
むしろ、そこで止まってしまったご夫婦が、2つの後悔のどちらかに進んでしまいます。
ひとつは、それでも欲しくて、背伸びして買うパターン。
「二人で稼いでるんだから、なんとかなる」と、ペアローンを目一杯まで組む。
でも、金利はこれから上がっていく時代です。
どちらかが体調を崩す、育休に入る、時短にする、転職して一時的に収入が落ちる。
二馬力が一馬力になった瞬間、その返済が、家計を一気に圧迫します。
しかも、片方が時短や休職になりやすいのは、たいてい子育ての時期。
それは、教育費が増え始める時期とも重なります。
収入が減る時期と、出ていくお金が増える時期が、ぴったり重なる。
ここで、目一杯まで借りたローンが、一気に重くのしかかってきます。
もうひとつは、諦めて、動くのをやめるパターン。
「今は高いから、様子を見よう」
これも気持ちはわかります。
でも、待っているあいだも、家賃は払い続けているし、その家賃も上がってきています。
数年後に価格が下がる保証はどこにもなくて、減っていくのは、あなたの年齢と、ローンを組める残りの年数だけ。
35年ローンは、35歳で組めば完済は70歳。
40歳まで待てば、75歳です。
待てば待つほど、返済が老後に食い込んでいきます。
背伸びして詰まるか、待っているあいだに、もっと届かなくなるか。
「時代のせい」って考えるのをやめると、だいたいこのどちらかになってしまいます。
そして、この2つの後悔の根っこは、同じです。
「全部を、なんとかしようとした」こと。
酷な話かもしれませんが、この時代、全部はもう無理です
じゃあ、どうすればいいのか。
ここから、少しきつい話をします。
この時代、「全部入り」の家は、もう無理です。
みなさんの親世代は、年収の数倍で、「都心寄り・新築・そこそこ広い・家計にも余裕・子ども二人・片方は専業でもOK」
こういう全部が、わりと普通に手に入りました。
でも、今は違う。
1億円の時代に全部を手に入れようとすると、
どこかに必ず、無理が出ます。
たいていは、家計か、家族の暮らしのどちらかです。
誤解しないでほしいのは、親の世代が特別すごかったわけじゃない、ということ。
当時は、家の値段が、今よりずっと給料に見合っていた。
ただ、それだけです。
同じだけ努力しても、時代が違えば、手が届く範囲はまるで変わる。
みなさんが親と同じようにいかないのは、自分の責任じゃなくて、当たり前のことなんです。
だから、これから家を買う人に本当に必要なのは、「いくらまで借りられるか」を知ることじゃない。
「何を一番大事にして、何をあきらめるか」を、夫婦で先に決めることです。
何をあきらめるか、その選択肢を挙げてみます。
どれも、簡単な話じゃありません。
でも、「全部は持てない」という前提で、読んでみてください。
・立地をあきらめる
都心や人気の駅を、郊外や各駅停車の駅、あるいは隣の県に。
価格がいちばん大きく動くのは、ここです。
はっきり言えば、「その街は、今のうちの年収では、もう無理」と認めることでもあります。
しんどいけど、ここを認めた夫婦から、選択肢が広がります。
・新築をあきらめる
中古を買って、必要なところにだけ手を入れる。
新築の新しさは数年で当たり前になるのに、新築と中古の価格差は、35年ずっと返済にのしかかります。
新築へのこだわりは、今いちばん高くつく見栄かもしれません。
・広さ・部屋数をあきらめる
子ども部屋は、大きくなってから仕切っても間に合います。
狭さは間取りの工夫で吸収できるけど、借りすぎた返済額は、工夫では減りません。
・終の住処をあきらめる
一生モノ、という幻想を手放す。
ライフステージが変われば住み替える、という前提に立てば、1軒目は小さく、安く始められます。
・今、買うこ自体を、いったんあきらめる
買わない、という選択も、立派な戦略です。
高い時期に無理して買って詰まるくらいなら、しばらく賃貸で身軽にしておく。
「賃貸は家賃を捨ててるだけ」ともよく言われますが、高値をつかんで金利上昇で苦しくなるほうが、よっぽどもったいない。
そのうえで、ぼくがいいと思うのは、頭金にするはずだったお金や、毎月の余りを、コツコツと積立投資(インデックス投資)に回しておくことです。
理屈はシンプルです。
物価が上がり続けるということは、世界中のモノやサービスの値段が上がっていく、ということ。
だったら、世界全体に薄く広く投資しておけば、特別な知識やテクニックがなくても、その値上がりの波に、自分のお金も乗せておけます。
現金のまま置いておくと物価に負けて目減りしていくけれど、投資に回しておけば、インフレと一緒に育っていく可能性がある。
そうやって時間をかけて育てたお金で、たとえば子育てが一段落したころに、郊外や、少し小さめの「終の棲家」を、無理のない形で買う。
若いうちに背伸びして35年ローンを組むより、こっちのほうが性に合っている、という家族も、これから増えていくと思います。
もちろん、投資なので増える保証はないし、値下がりする年もあります。
だから「当面使わない余裕のお金を、長い時間をかけて」が大前提。
一発当てる話じゃなくて、物価の上昇に置いていかれないようにする話だと思ってください。
・自分たちだけで買う"をあきらめる
親から援助を受ける、という手もあります。
ただ、これにも引き換えがある。
お金を出してもらうと、多かれ少なかれ、口も出されます。
住む場所や間取り、ときには名義にまで。
援助はありがたいものですが、「夫婦だけで決める自由」と引き換えになることは、頭に入れておいてください。

そして、いちばん厳しくて、いちばん大事な話をします。
住居費を上げるということは、子どもの数や、教育にかけてあげられるお金や、老後の備えや、どちらかが働き方を変える自由を、そのぶん削る、ということです。
家というのは、家族が暮らすための「器」です。
その器を大きく立派にするために、中身である家族の暮らしや、これから選べるはずだった選択肢を削ってしまう。
それは、順番が逆なんじゃないかと思うんです。
立派な家に住んでいるのに、毎月の返済に追われて、旅行にも行けない。
二人目も迷う。
しんどくても、共働きをやめられない。
器は手に入れたのに、中の暮らしのほうが、どんどん苦しくなっていく。
これでは、なんのために家を買ったのか、わからなくなります。
「この家のローンがあるから、子どもはひとりにしよう」
「この返済が終わるまで、仕事は絶対に辞められない」
それを、2人が納得ずくで選んだのなら、いい。
それも立派な決断です。
でも、なんとなく家を優先して、気づいたら他のものを諦めていた。
これは、あとからじわじわ効いてきます。
あきらめることを、決められない。全部欲しい。
これが、この時代のいちばんの落とし穴だとぼくは思っています。

じゃあ、何を"最優先"にすればいいのか
「あきらめろと言われても、何を残せばいいのか分からない」
そうですよね。
ひとつ、やってみてほしいことがあります。
夫婦それぞれが、紙に「これだけは譲れない」を、3つだけ書く。
立地でも、広さでも、新築でも、子どもにかけるお金でも、なんでもいい。
そして、その紙を、見せ合ってみてください。
たいてい、ズレます。
夫は立地、妻は広さと子どものこと、みたいに。
でも、そのズレが見えることが、スタートなんです。
全部は無理だと分かったうえで、「じゃあ、うちが最後まで守るのは、これだね」を、2人で1つか2つに絞っていく。
順番は、いつも同じです。
物件を探す前に、まず"何を守るか"を決める。
探しながら決めようとすると、目の前のきれいな家に気持ちを持っていかれて、いつのまにか、また全部を追いかけてしまいます。
「あきらめる」は、負けじゃない
「あきらめる」と何度も書きました。
負けたみたいで、嫌ですよね。
わかります。ぼくも、できることなら全部そろえてあげたい。
でも、この時代に全部を求めるほうが、かえって家族を苦しめます。
何を一番大事にして、何を手放すか。
それを2人で選び切れた家族が、この「高すぎる時代」でも、ちゃんと笑って暮らしています。
逆に、全部を欲しがったまま走った家族が、あとで苦しくなっていく。
ぼくは、その両方を見てきました。
背伸びをやめて、郊外の中古を選んだ夫婦が、そのぶん浮いたお金で、毎年、家族で旅行に行けている。
都心の新築じゃないけれど、そっちのほうが、ずっと幸せそうに見える。
そういうことが、よくあります。
器の大きさじゃなくて、中身の暮らしを選んだ結果です。
家が買えないのは、みなさんが頑張っていないからじゃない。
だから、自分を責めなくていいんです。
そしてあきらめる前に、まずは2人で話してみてください。
「うちが、いちばん大事にしたいものって、なんだろう」と。
そこさえ決まれば、この高い時代でも、みなさんにとっての正解の家は、ちゃんと選べます。
話し合いのきっかけが欲しいご夫婦へ
ただ、この「2人で話す」が、いちばんモメるところでもあります。
意見が割れたときのすり合わせ方は、前に1冊にまとめました。
『家を買うかどうかで夫婦がモメたら読む本』
うまく話せないときに、よかったらどうぞ⤵️
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