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千葉ジェッツの現状:コヴァチ監督の欧州バスケと選手層の構造的ミスマッチ

@558525daiki
日本語2026年10月12日
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TL;DR

本記事では、千葉ジェッツのシーズン序盤における不振を分析し、その原因が単なる指導力不足ではなく、アドリアン・コヴァチ監督による欧州型の連続性バスケットボールと現行ロスターの能力との間に存在する構造的ミスマッチにあると論じます。さらに、主要選手の負傷がこの問題を深刻化させている点についても考察します。

富樫勇樹、渡邊雄太、マット・コステロ、ネイト・ウィリアムズ。これだけの戦力を持ちながら、なぜ千葉ジェッツは勝ち切れないのか。問題は監督の能力なのか、それとも選手の組み合わせなのか。

2026年10月12日。千葉ジェッツは横浜ビー・コルセアーズに106-108で敗れた。

開幕から7試合で2勝5敗。アルバルク東京との2試合を落とし、神戸ストークスにも敗れ、北海道戦で連敗を止めたものの、横浜戦では再び勝利を逃した。特に横浜戦はわずか2点差だっただけに、HCの采配や終盤の判断を疑問視したくなるのも理解できる。

しかし、ここで考えたい。千葉ジェッツは本当に「コヴァーチHCの戦術が悪いから勝てない」のだろうか。あるいは、もっと複雑な問題を抱えているのではないか。

コヴァーチが欧州で経験してきたバスケットボールと、千葉ジェッツが長年積み上げてきたバスケットボール。そして、現在所属する選手たちが最も力を発揮できるプレー。これらは、一見すると非常に相性が良さそうに見える。

しかし、実際には同じ「速いバスケットボール」でも、必要とされる判断、動き方、ボールの持ち方、守備の連動には大きな違いがある。

そして何よりも重要なのは、優秀な選手を集めることと、優秀な5人組を作ることは同じではないという事実だ。

この記事ではコヴァーチHCを擁護することを目的としない。逆に、開幕7試合で解任の是非を決めることも目的としない。本人の発言、クラブの編成、実際の試合結果、欧州バスケットボールの戦術的な特徴を照らし合わせながら、千葉ジェッツが抱える問題を整理していきたい。

※2026年10月12日時点の分析。公式記録や本人の発言に基づく事実と、戦術的な仮説を区別する。映像による全ポゼッションの検証やラインナップ別の詳細な集計を実施した記事ではないため、個々の戦術的な不一致を確定事項として扱わない。

1.まず見なければならないのは、負け数よりも「どう負けているか」

千葉ジェッツの開幕7試合を整理する。

9月25日:東京SR 97-92 ○

9月26日:東京SR 79-95 ●

10月2日:A東京 131-138 ●(4OT)

10月4日:A東京 71-96 ●

10月8日:神戸 86-94 ●

10月10日:北海道 109-103 ○

10月12日:横浜BC 106-108 ●(OT)

出典:B.LEAGUE公式試合記録。

この7試合には、全く性質の異なる敗戦が含まれている。

10月2日のA東京戦は4度の延長にもつれ込んだ激闘だった。あの試合を単純に「弱いチームの敗戦」と評価することはできない。しかし、同じA東京と対戦した10月4日は25点差で敗れた。

神戸戦では第3クォーター終了時点で69-61と8点リードしていたにもかかわらず、最終クォーターを17-33と圧倒されて逆転負けを喫した。横浜戦は第3クォーター終了時点で68-62とリードしていたが、第4クォーターに27-33と追いつかれ、延長戦の末に敗れた。

ここに、結果から確認できる問題がある。

千葉ジェッツは、相手を上回れる時間帯があるにもかかわらず、それを40分間、あるいは延長戦まで維持できていない。

これは「選手の能力が足りない」という説明だけでは片づけられない。

重要なのは、良い時間帯と悪い時間帯の落差が大きいこと、リードした状態から試合を終わらせる安定性に課題が見られること、そして相手が守備や攻撃の方法を変えてきた際、千葉が同じように有効な答えを出せているのかということだ。

特に神戸戦は象徴的だった。第4クォーターの入りに10連続失点を喫し、終盤にも得点が止まった。

こうした展開が起こる理由は、必ずしも一つではない。相手の守備変更、ラインナップの相性、疲労、ファウルトラブル、シュートの不成功などが重なる可能性がある。

ただ、試合中に生じる問題に対し、どの選手を、どの組み合わせで、どの役割に配置して対処するかはHCの仕事である。ここはコヴァーチHCに対して、十分に批判や検証が向けられてよい部分だと思う。

一方、単純なシーズン平均得点・失点でチームの実力を語る際には注意が必要だ。今季の千葉には4回延長の試合と1回延長の試合が含まれている。プレー時間が異なる試合をそのまま平均すると、ペースや得失点の印象が歪む。

本格的なチーム比較には、100ポゼッション当たりの得点効率(Offensive Rating)と失点効率(Defensive Rating)、さらにラインナップ別の指標が必要になる。

2.コヴァーチは、そもそもどんなバスケットボールを目指しているのか

ここを理解しないまま監督の評価を始めると、議論が噛み合わなくなる。

アドリアン・コヴァーチは、スペインの育成年代、ハンガリーのDEAC、ハンガリーU20代表で指導経験を積み、その後、ドイツのテレコム・バスケッツ・ボン、フランスのパリ・バスケットボール、スペインのバレンシアでアシスタントコーチを務めた。

DEACではすでにHC経験があるため、今回が初めてのHC就任というわけではない。ただし、EuroLeague級のトップクラブで第一責任者として長期間チームを率いた実績があるわけでもない。

この経歴は非常に興味深い。

ボン、パリ、バレンシアはいずれも、強度、運動量、攻撃のテンポ、選手の連動を重視してきたクラブだ。ただし、3クラブが全く同じ戦術を採用していたわけではないし、コヴァーチがそこで経験したすべての戦術を、そのまま千葉に導入していると断定することもできない。

重要なのは、本人が何を目指すと説明しているかだ。

2026年8月25日公開のバスケット・カウントのインタビューで、コヴァーチはアップテンポな攻撃、相手を混乱させる守備、そしてチーム全体の貢献を重視する方針を語っている。

特に印象的なのが「タイムシェアをすることなしに実行できない」という発言だ。コヴァーチは、複数の選手をローテーションで起用し、高い集中力と運動強度を維持する必要性を説明している。

この発言には、彼が目指すチームの設計思想が表れている。

2-1.コヴァーチの理想は、特定の5人への依存を小さくすること

従来のスター依存型の攻撃を、単純化して説明してみよう。

富樫がボールを運ぶ。スクリーンを呼ぶ。PnRでズレを作る。そこからシュートかパスを選択する。

これは決して悪い攻撃ではない。むしろ富樫のような優れたPGがいれば、非常に合理的だ。

一方、コヴァーチの言葉から読み取れる理想は、チーム全体で高い運動量を維持し、異なる選手が継続的に脅威を生み出すバスケットボールだ。

例えば、富樫が最初のPnRで守備を動かし、そこからウイングへパスを展開する。渡邊がクローズアウトを攻め、ヘルプが寄ればビッグマンがショートロールやパスの中継点になる。相手がペイントを守ろうとすれば、逆サイドからカットが入る。守備がローテーションした先では、さらに次の選手が判断する。

このように、最初のアクションだけで攻撃を完結させず、連続した判断によって優位性を維持する。

これはコヴァーチが採用したと確認できる特定のセットプレーではなく、彼が掲げる集団的な攻撃の方向性を理解するための戦術例だ。

このモデルの利点は明確である。最初のボールハンドラーが完全に守られても、次の選手が攻撃を続けられる。ディフェンスが一度成功しただけでは、ポゼッションが終わらない。そして守備側は、特定のスターだけを止めればいいわけではなくなる。

しかし、この理想には非常に難しい条件が存在する。

5人全員が同じタイミングで守備の変化を認識し、その変化に適した判断を下さなければならない。

ただ走ればいいわけではない。ただパスを回せばいいわけでもない。ボールを持っていない選手にも、極めて高度な理解力が要求される。

2-2.欧州型の連続性は「自由に動くこと」とは違う

欧州の組織的な攻撃というと、5人が流動的にポジションを入れ替える姿を想像するかもしれない。しかし、優れた連動性とは、選手が好きな場所へ動くことではない。

むしろ重要なのは、判断基準が共有されていることだ。

相手がスイッチしたら、どこにミスマッチができるのか。相手のビッグマンがドロップしたら、誰がミドルレンジを攻めるのか。強いヘルプが来た場合、誰がショートコーナーを埋めるのか。ペイントに侵入した選手の背後を、誰がリロケートして埋めるのか。

こうした細かな判断が共有されて、初めて連続的な攻撃が成立する。

そして、この種のシステムで最も恐ろしいのは、選手全員が一生懸命プレーしているのに、攻撃が機能しなくなることだ。

全員が動いている。しかし、同じタイミングで動きすぎてスペースが消える。パスは回っている。しかし、誰もペイントに侵入しない。オープンシュートは生まれる。しかし、その選手が得意とする場所ではない。最初のアクションは実行できる。しかし、相手が対応した後の2手目が止まる。

この状態を、外から見ると「何をしたいのか分からない」「戦術が浸透していない」と感じることになる。

ただし、その原因が選手の理解不足なのか、HCが判断基準を整理しきれていないのか、あるいは適切な選手配置ができていないのかは、分けて考える必要がある。

3.千葉ジェッツは、開幕前に想定したチームをまだ一度も十分に試せていない

この問題は、コヴァーチへの評価を考えるうえで非常に重要だ。

現在の千葉ジェッツは、開幕前に構想したロスターから大きな変更を余儀なくされている。

マット・コステロ:9月29日インジュアリーリスト登録。 左足の靱帯損傷などで全治4〜6週間と発表。9月25日の開幕戦に出場したものの、約7分で退いた。

ブランドン・ランドルフ:9月9日インジュアリーリスト登録。 プレシーズンゲームで左ハムストリングスを負傷。全治6〜8週間と発表。

ルーク・メイ:9月24日緊急補強。 ランドルフの離脱を受けて加入。攻撃の中継、リバウンド、得点を担う。

エルジー・ギル:10月7日緊急補強。 コステロの離脱を受けて加入。合流から間もない段階でリーグ戦のローテーションに入った。

さらに10月2日には菅野ブルースの負傷も発表されている。

これを単なる「怪我人が多くて不運だった」という話で終わらせるべきではない。問題は、離脱した選手の人数以上に、その選手がチームの戦術構造の中で担うはずだった役割である。

3-1.コステロの欠場は、得点やリバウンドの数字以上に痛い

コステロは単純なインサイド得点源ではない。

208cmのサイズを持ちながら、外に開いてシュートを打ち、スクリーンからロールとポップを使い分け、パスの中継点にもなれる選手だ。このタイプのビッグマンがいると、チームの攻撃は一気に多様化する。

例えば富樫とコステロのPnR。相手のセンターがペイントを守れば、コステロがポップして外で受けることができる。相手が富樫へ強く出れば、コステロがボールを受けて数的優位を処理することもできる。スイッチされた場合は、サイズの優位性を攻める選択肢が生まれる。

もちろん、これらの選択がすべて自動的に得点につながるわけではない。ただ、コステロの存在によって守備側は考えるべき選択肢が増える。

重要なのは、ここだ。

コステロの価値は自分が何点取るかだけでなく、富樫や渡邊がプレーしやすくなることにも存在する。

彼が不在となれば、単に外国籍ビッグマンを1人失っただけではなく、攻撃の形を成立させるための接続点を失うことになる。

現在の代替選手がコステロと同じ能力を持っているというわけではない。当然、攻撃を設計し直す必要が出てくる。

3-2.ランドルフとメイは、同じポジション表記でも同じ選手ではない

ランドルフはペリメーターから自分で得点を作れるタイプのウイングとして獲得された。一方、メイは203cmのサイズを生かしたリバウンド、フィニッシュ、パスの中継などで価値を生み出せるフォワードだ。

メイの加入自体は優れた緊急補強と評価できる。実際、10月8日の神戸戦では8アシストを記録し、10月12日の横浜戦でも7アシスト、12リバウンドを残した。現在の千葉で攻撃の接続役を務められることは、数字からも読み取れる。

しかし、ランドルフの代わりにメイが入ったことで、必ずしも同じ攻撃を再現できるわけではない。

ランドルフに期待していたのがペリメーターからの突破や得点創出であれば、メイを加入させることによって攻撃の起点を変える必要が出てくる。

本来はウイングがドライブで崩すはずだった場面で、フォワードのハンドオフやパッシングから攻撃を始める。本来の攻撃が個人の突破から始まるなら、代替後はボールを動かしながら優位性を作る。

どちらが優れているという話ではない。

同じように得点できる選手でも、得点に至るまでの構造は全く異なる。

そしてシーズン途中でその構造を作り直すには時間がかかる。

3-3.これだけの変更があれば、チームの完成が遅れるのは合理的に説明できる

開幕前から想定していた外国籍選手のうち2人が離脱し、途中加入選手が短期間で重要な役割を担う。特に、複数選手が瞬時の連携判断を共有することを要求するシステムでは、この影響を小さく見積もるべきではない。

スクリーンの角度。ハンドオフでボールを渡すタイミング。相手がスイッチした際の対応。PnR後のショートロールの立ち位置。守備でヘルプに出る位置と、そこから戻る順番。

こうした細部は、同じチームで何度もプレーする中で磨かれる。

新加入の選手は、以前のチームで優秀だったとしても、千葉の他の4人と同じタイミングで判断できるとは限らない。

ただし、ここには重要な反論がある。

選手が離脱したからシステムが機能しないというのであれば、HCはどこまでシステムを変えるべきなのか。

ここから先が、コヴァーチの本当の評価につながる。監督は理想的な選手が揃うまで待っていればいいわけではない。現在使える選手で勝てる方法を見つけることも、HCの能力だからだ。

4.最大の問題は「コヴァーチの理想」と「現在の選手構成」が要求するバスケットボールにズレがあること

ここからが、この記事で最も考えたい部分だ。

個人的には、千葉ジェッツの問題を単純な戦術の良し悪しではなく、システムが要求する役割と、選手たちが実際に発揮できる能力の噛み合わせとして考えたい。

しかも、これはコヴァーチが欧州から持ち込んだ思想を否定する話ではない。むしろ、その思想を千葉で成功させるには何が必要なのか、という問題である。

4-1.富樫勇樹――システムに従わせるだけではもったいない天才

富樫は、単純にセットプレーを遂行するだけのPGではない。

彼の最大の強みは、守備側が想定していないタイミングで攻撃を始め、そこから一瞬で優位性を生み出せることだ。

PnRにおけるプルアップシュート。スクリーンを使う前の方向転換。相手ビッグマンのポジショニングを利用したドライブ。ヘルプが寄ってきた瞬間のパス。

これらの能力は、事前に完全な手順を決めた攻撃だけでは生かしきれない。むしろ富樫には、ある程度の裁量を与えた方が大きな違いを作れる場面がある。

一方、組織的な連続攻撃では、ボールを持つ選手以外の動きも重要になる。

例えば、富樫がボールを手放した後にスクリーンを使って再び受ける攻撃は、相手にとって厄介なものになる。富樫が最初から全部作るのではなく、味方が守備を動かした後に富樫が攻める。この使い方は理論的に非常に合理的だ。

しかし、ここには落とし穴がある。

富樫が最初にボールを持たないことで得られる利益より、富樫が最初からボールを持つことで得られる利益の方が大きい時間帯もある。特に試合終盤だ。

相手の守備が整っている。ポゼッションの残り時間が少ない。チームの連続アクションが停滞している。こうした場面では、あえてシンプルに富樫を中心としたPnRを展開する方が合理的な場合がある。

重要なのは、富樫をシステムの外に置くことではない。

富樫をシステムの一部として利用する時間と、システムそのものを富樫のために動かす時間を使い分けることだ。

コヴァーチの理想が全員の判断を重視するバスケットボールだとしても、全員に同じ攻撃責任を与える必要はない。

優れた組織的バスケットボールは、スターの個性を平均化するものではない。スターの個性が最大限に発揮される状況を、残りの4人で作るものだ。

4-2.ネイト・ウィリアムズ――得点できる選手を、ただのフィニッシャーにしてはいけない

現在の千葉において、最も重要な選手の一人がネイト・ウィリアムズだ。

10月10日時点で平均28.5得点。FG成功率56.8%、3P成功率35.5%という成績を残している。

ここで強調しておきたいのは、ネイトの得点が多いこと自体を問題視すべきではない、ということだ。これだけの得点効率を残している選手にボールを託すのは合理的である。

問題になる可能性があるのは、ネイトによる得点創出と、チーム全体の連動性がどのように結びついているかだ。

例えば、ネイトがドライブして得点する。それ自体は成功だ。しかし、次のポゼッションでも同じ形から攻撃が始まり、周囲の選手が立ったままボールを見ているだけになれば、チームとしての攻撃の再現性は高まらない。

逆に、ネイトの突破を警戒する守備を利用して、他の選手のカットやオープンシュートを作れるなら、彼の得点力はチーム全体の武器になる。

つまり、ネイトに必要なのは必ずしもパスを増やすことではない。相手がネイトを止めようとした結果、他の選手にどのような優位性が生まれるのかを整理することである。

ここはHCが担うべき重要な仕事だ。

仮にネイトが自分の得点を減らしてチーム全体にパスを回したとしても、その結果、得点効率が下がるのであれば意味がない。全員がボールに触ることと、効率的な攻撃を行うことは別だ。

コヴァーチが求める集団的な攻撃と、ネイトのような強力な個人得点源は本来対立しない。

優れたシステムとは、全員で均等に得点することではなく、得点するべき選手が、最も有利な状況で攻められるようにすることだからだ。

4-3.渡邊雄太――最高の万能選手だからこそ、便利屋にしてはいけない

渡邊の存在は、千葉におけるラインナップ構築の可能性を大きく広げる。

206cmのサイズを持ちながら、ウイングとしてプレーし、ヘルプディフェンス、スイッチ、リバウンド、カット、トランジションなど、さまざまな役割を担える。

こうした万能型の選手がいると、HCは柔軟なラインナップを作りやすくなる。しかし、万能であることには別の難しさも存在する。

何でもできる選手に、何でもやらせてしまうことだ。

例えば、渡邊を4番で起用する。攻撃では相手の大型PFを外へ引き出し、スペーシングを広げられる可能性がある。守備ではスイッチの柔軟性が高まり、相手のウイングを守ることもできる。

一方で、相手のビッグマンが強力であれば、リバウンドやインサイドのフィジカルな負担も大きくなる。特にセンターに十分なサイズやリムプロテクト能力がないラインナップでは、渡邊が本来の持ち味を発揮する前に、ゴール下の守備やリバウンド対応に追われる可能性がある。

そして疲労が蓄積すれば、攻撃面での運動量にも影響する。

つまり、渡邊を4番で起用できるということと、渡邊を4番で使うことが最適であるということは違う。

個人的には、渡邊の価値を最大化するためには、相手に応じたポジションの使い分けが重要になると思う。

相手がスモールラインナップなら4番で優位性を作る。相手に強力なインサイドがいるなら、もう一人の大型選手と組ませて3番寄りに配置する。

そして攻撃では、渡邊を単純なコーナー待機のシューターとして固定するのではなく、カット、トランジション、クローズアウトへのアタックなどで、積極的に優位性を生み出す。

万能選手の能力を全方面に薄く配分するのではなく、特定の時間帯に、特定の強みを集中して発揮させるという考え方である。

4-4.ルーク・メイ――コステロの代わりではなく、別の攻撃を作る選手

メイが担っている役割についても、もう少し考えたい。

現在のメイは、単純な得点源やリバウンダーという評価だけでは不十分だ。神戸戦の8アシスト、横浜戦の7アシストが示しているように、周囲の選手を生かす攻撃の中継点としても機能している。

しかし、メイとコステロは違う。

コステロにはセンターとしての役割を担いながら、外へ開いてスペーシングを作る選択肢がある。メイも多彩な攻撃能力を持つが、主にフォワードとしての強みを持つ選手だ。

だからこそ、メイを5番で使うラインナップには独自の長所と短所が生まれる。

長所は機動力とパスの展開だ。メイを中心にハンドオフや連続スクリーンを展開すれば、富樫やネイトに攻撃しやすい状況を作れる。

一方、相手に強力なセンターがいる場合、ゴール下の守備やディフェンスリバウンドで負担を抱える可能性がある。

そこに渡邊の4番起用を組み合わせれば、スイッチ可能な機動力の高いラインナップになる一方、相手によってはインサイドのサイズや強さに問題が生じる。

つまり、メイをセンターに置くこと自体が良いとか悪いという話ではない。

メイをセンターに置いて攻撃で得られる利益と、守備で生じる負担を比較しなければならない。

これがラインナップ構築の本質だ。

5.コヴァーチへの批判が最も妥当なのは、実は「細かい選手交代」の部分かもしれない

これはかなり重要な論点だと思う。

10月4日のA東京戦後、コヴァーチはJbasketの取材に対し、細かいタイムシェアの理由を説明している。

目指しているのは、前から圧力をかけるディフェンスと、そこから素早く攻撃に転じるバスケットボール。その強度を維持するために選手を頻繁に交代させ、理想としては11〜12人のローテーションを考えていると語った。

また、若手を先発起用している理由についても、ファーストユニットとセカンドユニットのバランスを重視していると説明している。

この考え方自体は、戦術的に理解できる。ただし、ここには大きな問題がある。

5-1.交代を細かくすれば、必ずしも強度が上がるわけではない

例えば、ある5人が非常に良い流れを作っているとする。

攻撃のタイミングが合っている。守備でも声を掛け合い、スクリーンへの対応が整理されている。全員が相手の弱点を理解し、同じ方向を向いている。

この状況で選手を交代させれば、体力面では新鮮な選手を投入できる。しかし、同時に失われるものがある。それが5人の連動性だ。

バスケットボールにおいて、選手個人のパフォーマンスは、必ずしも5人全体のパフォーマンスと一致しない。

ある選手が非常に良い守備をしていても、味方のヘルプとのタイミングが合わなければ簡単に失点する。逆に、個人能力では劣っている選手でも、周囲との役割分担が明確ならチーム全体を安定させることができる。

つまり、ローテーションを評価する際に重要なのは、単純な選手の疲労度だけではない。

その5人が共有している判断や役割分担を、交代によってどれだけ維持できるのかという問題がある。

コヴァーチのタイムシェアは、全員が一定水準の戦術理解を持ち、誰が出ても近い役割を遂行できる状態では非常に合理的だ。

しかし、現在の千葉は新しい選手が多く、しかも途中加入した選手までいる。全員が同じ戦術理解に達しているとは限らない。

その状態で欧州トップクラブのような細かいローテーションを目指せば、選手交代のたびにチームの連動性を作り直す必要が生じる。

ここに、理想と現実のズレが生まれる可能性がある。

5-2.最強の5人を先発させないことには合理性がある。ただし条件付きだ

千葉ファンの中には、なぜ富樫を先発で使わないのか、なぜ強力な選手を同時に並べないのか、と疑問を持つ人もいるだろう。

しかし、これは必ずしも間違った考え方ではない。

例えば、富樫とネイトを常に同時起用した場合、攻撃面の創造力は高まるかもしれない。一方、両選手がベンチに下がった時間帯には、得点を作れる選手が不足する可能性がある。

そのため、どちらかをセカンドユニットに残す。これは40分間の総合力を考えるうえで、十分に合理的だ。

そもそも、富樫のベンチ起用は今季突然始まったものではない。前任のグリーソンHCも2025-26シーズンに、守備のマッチアップと攻撃面の役割を考慮して富樫をベンチ起用していた。

ただ、ここで重要な条件がある。

戦力を分散することによって、両ユニットの総合力が実際に高まっていなければ意味がない。

例えばファーストユニットが守備を重視しすぎて得点できず、セカンドユニットが攻撃を重視しすぎて失点するのであれば、単に両方の弱点を露出させているだけになる。

また、相手の主力が同時に出場している時間帯に、千葉が戦力を分散させたラインナップを使えば、そこで大きな差が生まれる可能性もある。

だからこそ検証すべきなのは、先発の名前ではない。

誰がどの時間帯に出ているか。誰と組んでいるか。その時間帯の相手は誰か。そして、どれだけ得点差を作っているかだ。

さらに言えば、先発を分散する方針と、試合終盤に最も勝率の高い5人を集中起用する方針は両立する。

コヴァーチへの批判は、「富樫を先発させろ」という単純な話よりも、良い時間帯を維持する交代と、悪い時間帯を止める交代ができているのかという部分に向けた方が建設的だと思う。

6.本当に深刻なのはオフェンス以上にディフェンスではないか

ここまで攻撃と選手起用について考えてきたが、現状の千葉において、より優先度が高いのは守備の整備だと考える。

なぜならコヴァーチが目指しているバスケットボールの出発点は、前から積極的に仕掛けるディフェンスだからだ。

守備から速攻を生み出す。そのために選手を頻繁に交代する。高い運動量を維持する。これが本人の説明した基本構造である。

ところが、その守備が相手に十分な負荷を与えられていなければ、システム全体が成立しない。

6-1.前からプレッシャーをかける守備は、必ずしも安全な守備ではない

積極的にボールへプレッシャーをかければ、相手に考える時間を与えず、パスミスや悪いシュートを誘発できる可能性がある。しかし、それは成功した場合の話だ。

最初のディフェンダーが抜かれれば、その背後には数的な不利が生まれる。

例えば、富樫と相手ガードの1対1で強くプレッシャーをかける。相手がそのプレッシャーを突破する。すると、次のディフェンダーがヘルプしなければならない。そこから相手がボールを展開すれば、さらに次の選手がローテーションする。

つまり、最初にボールを止められないだけで、チーム全体が長い距離を動かされることになる。そして、その回転が間に合わなければオープンシュートを許す。

ここに相手のセンターが強力であれば、さらに難しくなる。

ゴール下を守りたい。しかし、ウイングへのローテーションも必要になる。その結果、リバウンドのポジションを失う可能性がある。

これは、アグレッシブな守備が抱える典型的なリスクだ。

6-2.数字を見ると、前から仕掛ける守備が十分に成果を生んでいるとはまだ言い切れない

10月10日までの公式成績で、千葉の平均スティール数は4.8本程度、リーグ23位だった。一方、平均ブロックは4.7本程度でリーグ2位。さらに、チームの3P成功率は30.6%で、上位の数字ではない。

もちろん、スティール数だけで守備全体を評価することはできない。積極的なプレッシャーによって相手の攻撃時間を削り、難しいシュートを打たせている可能性もあるからだ。

しかし少なくとも、守備のアグレッシブさが大量のスティールという形で明確に表れているわけではない。

そして10月4日のA東京戦では、非常に厳しい数字が残っている。

A東京のペイント内得点:42点

A東京の攻撃リバウンド:15本

千葉のターンオーバー:16回

A東京のTO起点得点:23点

出典:10月4日A東京戦・Jbasket試合後レポート。

これらは単にシュートが入らなかったという数字ではない。ペイントを攻められ、オフェンスリバウンドを奪われ、さらに自分たちのターンオーバーから失点している。

つまり、失点の前段階から複数の問題が発生している。

しかもA東京も、この試合ではラクラン・オルブリッチが欠場していた。だから「千葉は怪我人がいるから仕方ない」とだけ説明することはできない。

ここは明確にHCとチームが改善しなければならない部分である。

6-3.高強度の守備で最も重要なのは、実は最後のリバウンド

コヴァーチが前からプレッシャーをかける守備を重視するのは理解できる。ただし、守備はボールにプレッシャーをかけただけでは終わらない。

相手に難しいシュートを打たせても、リバウンドを取られれば次の攻撃が始まる。

強いボールプレッシャー。素早いヘルプローテーション。難しいシュートを打たせる。しかし、リバウンドを取られる。

これでは、40分間の高強度ディフェンスを実行しても十分な成果につながらない。

むしろ守備側の運動量だけが増え、次の攻撃へ走り出す機会が減ってしまう。

守備から走るチームにとって、ディフェンスリバウンドはオフェンスの最初のプレーでもある。

だからこそ、前から積極的に仕掛けるのか、ペイントを固めてリバウンドを優先するのか、その選択はラインナップによって変える必要がある。

コステロが不在で、メイや渡邊をインサイドで使う時間帯が多くなるなら、なおさらだ。

アグレッシブな守備を続けること自体が目的になってはいけない。最終的に相手の得点を抑え、自分たちの攻撃機会を増やすことが目的なのだから。

7.「富樫を守備でどう隠すか」と「チームとして強く守ること」は両立できる

ここはB.PREMIERの新しい環境を考えるうえでも興味深い。

オンザコートの自由度が高まったことで、相手チームはサイズと運動能力のあるラインナップを作りやすくなった。富樫のような小柄なPGに対して、サイズ差を利用した攻撃を仕掛けられる可能性は当然ある。

しかし、小柄なPGがいるからアグレッシブなディフェンスはできない、というわけではない。

重要なのは、そのPGが攻められる状況をどう減らすかだ。

例えば、相手の大型ウイングが富樫を狙おうとする。その際、スクリーンが来る前にディフェンダーを交換するプリスイッチを使えば、富樫が直接ミスマッチを受ける場面を減らせる可能性がある。

いったん不利なスイッチが発生しても、相手がポストへボールを入れる前に、周囲の選手とマークを交換するスクラムスイッチで対応できる。

さらに、富樫を比較的攻撃の脅威が小さい選手へマッチアップさせ、原や渡邊に強力なクリエイターを守らせる方法もある。

ただし、いずれも万能な解決策ではない。相手が素早くボールを動かせば、スイッチを交換する時間を与えてもらえない。プリスイッチを読まれれば、別のミスマッチを作られることもある。

特にB.PREMIERでは、日本人選手だけでなくサイズのある外国籍ガードやウイングも起用できるため、一つの方法だけで弱点を隠し続けることは難しい。

重要なのは、富樫を守備の弱点として単純に排除することではない。

富樫の攻撃価値を最大化しながら、チーム全体として許容できる守備負担に抑えることだ。

そもそも、富樫を起用することでオフェンスが大きく改善するのであれば、多少守備に不利が生じても、そのラインナップには十分な価値がある。

反対に、富樫をベンチに下げて守備を強化しても、得点力が著しく低下すれば勝利にはつながらない。

バスケットボールでは、攻撃と守備を別々に評価するだけでは不十分だ。最後は5人の総合力で考える必要がある。

8.コヴァーチが本当に修正すべきなのは、システムの放棄ではなく「選択肢を減らすこと」かもしれない

ここからは具体的な改善案を考えたい。

個人的には、現在の千葉に必要なのは、より複雑な戦術を導入することではないと思う。むしろ、逆だ。

試合の状況に応じて、選手たちが迷わず実行できる攻撃と守備を絞り込むこと。

これが重要なのではないか。

8-1.攻撃には3つの優先順位を作る

一つ目は、守備から素早く走って優位性を作ること。

ディフェンスリバウンドから富樫、瀬川、ネイトなどが素早く前進する。渡邊も走力とサイズを利用して、相手の守備が整う前に攻撃する。ここで有利な状況を作れれば、そのまま攻めてよい。

二つ目は、トランジションで優位性を作れなかった場合に、素早く次のアクションへ移行することだ。

例えば、富樫とメイのハンドオフ。ネイトのドライブを生かすための空間確保。渡邊のカット。原や金近のスポットアップ。

こうした攻撃をあらかじめ整理し、1回目の攻撃が止められた時に、次の選手が何をすべきか明確にする。

三つ目は、どうしても崩せない場合の最終手段だ。

ここでは富樫やネイトの個人能力を積極的に利用する。特に終盤は、無理に全員で複雑なアクションを遂行する必要はない。最も信頼できる選手へボールを託し、周囲の4人がその選手の成功確率を高める。

この3つの優先順位を共有するだけでも、攻撃の迷いを減らせる可能性がある。

もちろん、実際に現在の千葉がどの程度これらを共有できているのかは、詳細な映像検証が必要だ。

8-2.守備はラインナップによって原則を切り替える

コヴァーチは全員で高強度の守備をすることを目指している。ただ、同じ方法を全員に要求する必要はない。

例えば、瀬川、原、渡邊などを中心に機動力を生かせるラインナップでは、積極的にボールへプレッシャーをかける。相手のハンドラーを苦しめ、トランジションを狙う。

一方で、富樫を中心に攻撃力を優先したラインナップでは、スイッチやプリスイッチを使い、極端なヘルプを減らす守備を採用する選択肢もある。

ニカのようなセンターを起用する場合には、相手との相性に応じてドロップを使い、ペイントの守備とリバウンドを重視することも考えられる。

大切なのは、すべてのラインナップに同じ守備の理想を押し付けないことだ。

相手によっては積極的に守る。別の相手には、まずペイントを守る。試合終盤は、リバウンドを確実に確保できる配置を選ぶ。

このように、チームのアイデンティティを維持しながら、守備の方法を変える余地を持たせる。

それは決して理念の放棄ではない。理念を勝利に結びつけるための調整だ。

8-3.ローテーションは「平等」ではなく「組み合わせ」で考える

ここも重要だ。

コヴァーチのタイムシェアという考え方は、選手全員に均等な時間を与えることとは違う。

実際、本人も練習で信頼を得られていない選手がいることに触れ、理想の11〜12人ではなく、現状は約10人のローテーションになっていると説明している。

重要なのは、選手の能力を足し算するのではなく、それぞれの長所を掛け合わせることだ。

富樫の攻撃力を最大化するなら、守備力のあるウイングとパスをつなげるビッグを組み合わせる。

ネイトの突破力を最大化するなら、ボールを持ちすぎない選手、スペーシングを確保する選手を配置する。

渡邊の万能性を最大化するなら、相手のサイズに応じて3番・4番を使い分ける。

メイのパス能力を最大化するなら、周囲にカットや外角で脅威を与えられる選手を置く。

守備とリバウンドを安定させたいなら、ニカや守備力のあるウイングを組み合わせる。

これは具体的な起用の提案であり、現時点で各組み合わせの優劣が実証されているという意味ではない。

ただ、こうした役割の整理を進めることで、同じ選手でも異なる価値を生み出せるようになる。

そして、ここで本当に重要なのは、最も強い5人を探すことではなく、最も強い「複数の5人組」を作ることである。

相手の特徴、試合の流れ、残り時間に応じて、その中から適切な組み合わせを選ぶ。

コヴァーチが欧州で経験してきた多人数ローテーションを成功させるには、まさにこの部分の完成度が問われる。

9.では、コヴァーチHCへの批判はどこまで正当なのか

ここまでの分析を踏まえると、コヴァーチに対する評価は少なくとも3つに分けるべきだと思う。

9-1.「まだ勝てないこと」だけで、HCの能力不足と断定するのは早い

これは明確に言える。

新しいHC。外国籍選手の大幅な入れ替え。当初の主力外国籍2人の負傷。シーズン途中の緊急補強。新しいディフェンスシステム。新しいローテーション。

これだけの変化が生じているチームで、最初から完成度の高いバスケットボールを実現するのは難しい。

しかも、B.PREMIERでは相手の選手構成も変化している。

その意味で、開幕7試合の成績だけを根拠にコヴァーチの戦術的な能力を否定するのは、適切ではない。

ただし、これは監督の責任を免除する話ではない。

9-2.「負け方が改善されないこと」への批判は正当性がある

こちらは、より厳しく評価すべき部分だ。

神戸戦では第4クォーターに33失点。横浜戦でも第4クォーターに33失点し、リードを守り切れなかった。

一試合の終盤の失敗は偶然でも起こり得る。しかし、複数の試合で似たような問題が生じるのであれば、その原因を調べる必要がある。

守備の方法が相手に対応されているのか。交代によってバランスが崩れているのか。選手の疲労が原因なのか。相手のエースを止めるためのマッチアップ変更が遅れているのか。攻撃が止まったことによって、相手に良いトランジションを与えているのか。

ここはHCの判断が非常に大きな意味を持つ。

シーズン序盤だから負けても仕方ない、という説明はできない。

シーズン序盤だからこそ、問題をどれだけ早く特定し、修正できるかがHCの能力として問われる。

9-3.「欧州の優れたACだから、必ず優れたHCになる」とも限らない

これは、コヴァーチを評価するうえで避けて通れない問題だ。

ボン、パリ、バレンシアでの経験は間違いなく貴重だ。しかし、優れた組織で戦術を学んだことと、自分がHCとしてその戦術を最適化できることは別の能力である。

ACの立場では、HCが設定した方向性に沿って特定の役割を担う。一方、HCは全体を管理する責任を持つ。

選手起用を決める。試合中に判断する。選手たちの不満に対応する。長期的な育成と、目の前の勝利を両立する。そして、自分が理想としている戦術を変更するべきかどうか判断する。

ここには、非常に難しい意思決定が存在する。

コヴァーチにとって、千葉はその能力をより高い競争環境で証明する場でもある。

彼の評価を決めるのは、欧州でどれほど優れた経験をしてきたかではない。

現在の千葉ジェッツという特殊なロスターを、どれだけ勝てる集団に変えられるかだ。

10.富樫勇樹の発言は、実は現在の問題を非常に正確に表している

10月4日のA東京戦後、富樫は現状について、攻守の双方に問題があり、チームの考え方を見直す必要があるかもしれないと語った。

一方で、まだ4試合の段階でチーム全体を判断するのは早いという見方も示している。

そして特に印象的だったのは、チームが完成するまで待つのではなく、そこに至るまでの試合でも勝利を積み重ねなければならないという姿勢だった。

「綺麗な勝ち方じゃなくても良い」

この言葉は、現在の千葉ジェッツにとって非常に重要だと思う。

なぜなら、ここにはHCの理想と選手の現実的な要求を結びつけるヒントがあるからだ。

コヴァーチは完成度の高いシステムを作りたい。富樫は、システムの完成を待っている間にも勝たなければならないと考えている。

この2つは本来、対立するものではない。しかし、どちらを優先すべきかは試合の状況によって変わる。

シーズン序盤に新しい攻撃を試すことは重要だ。一方、接戦の終盤で実行できる精度に達していない攻撃を繰り返すことが、必ずしも合理的とは限らない。

若手に出場機会を与えることも重要だ。しかし、勝敗を決める時間帯では、その日の相性が最も良い5人を優先する必要があるかもしれない。

高強度の守備を目指すことも重要だ。ただし、相手がその守備を崩してくるなら、守り方を変えなければならない。

ここにHCの判断力が問われる。

理想を持つことと、理想に固執することは違う。

個人的には、コヴァーチが目指すバスケットボールの方向性そのものは否定する必要がないと思う。

むしろ、問題はその理想を現在の選手たちに合わせてどれだけ柔軟に調整できるかにある。

11.千葉ジェッツの復調を判断するために、本当に見るべき指標

ここからは、今後の試合で何を見ればコヴァーチへの評価が変わるのか、具体的に考えたい。

勝敗はもちろん重要だが、それだけではチームが本当に改善しているのか判断できない。

重要なのは次の5つである。

守備の安定性: 相手の得点効率、ペイント失点、オープン3P、リバウンド。

攻撃の再現性: シュートの質、ターンオーバー、ペイントへの侵入、アシストの中身。

ラインナップの相性: どの5人組が、どの相手に対して優位性を作れているか。

試合中の修正力: 相手の守備変更や連続得点に対し、適切な対応ができているか。

主力の役割最適化: 富樫、渡邊、ネイト、メイの長所が重ならず生かされているか。

特に重要なのは、守備の安定性と試合中の修正力だと思う。

例えば、次の数試合で勝敗が改善しなかったとしても、相手のペイント得点が減り、守備リバウンドの確保率が高まり、終盤の大きな失点が減っているのであれば、チームは正しい方向へ進んでいる可能性がある。

反対に、得点力のある選手が爆発して一試合に勝ったとしても、守備の問題が改善されていなければ、根本的な解決にはなっていない。

また、ラインナップの評価には相手の強さも考慮する必要がある。

控え選手同士で得点差を広げた5人組と、相手の主力5人に対して互角に戦った5人組を、単純なプラスマイナスだけで比較することはできない。

試合の残り時間、得点差、相手の布陣、ファウルトラブルなども含めて評価すべきだ。

そして、7試合程度の小さなサンプルでは、偶然のシュート成功や失敗も大きな影響を与える。

だからこそ、一試合の印象ではなく、複数試合を通じた変化を追う必要がある。

12.HCを交代させれば、千葉ジェッツは強くなるのか

コヴァーチへの批判が大きくなれば、当然、解任や監督交代を求める声も出てくるだろう。しかし、これは慎重に考えたい。

仮にコヴァーチを交代させたとしても、コステロとランドルフがすぐに復帰するわけではない。新加入選手との連携が突然完成するわけでもない。守備リバウンドやマッチアップの問題も、監督を変えただけで解決するとは限らない。

むしろ、新しいHCのもとでさらに異なる戦術を導入することになれば、選手たちが再びシステムを覚え直す必要が生じる可能性もある。

もちろん、だからといってHC交代が常に間違いだというわけではない。

選手と戦術の相性が根本的に悪い。試合中の修正ができない。選手の特性を生かせない。戦術への信頼が失われている。

こうした問題が長期的に続くのであれば、指導体制を見直す合理性は生まれる。

ただし、現時点ではそれらが確定したと判断するには材料が足りない。

むしろコヴァーチは、自分の理想と現実の間に存在する問題を把握し、修正する能力を示す必要がある段階だと思う。

だからこそ、今後数週間は非常に重要になる。

怪我人の状況。緊急加入選手の適応。ローテーションの安定。守備の変更。終盤の試合運び。

これらが改善していけば、現在の低迷は新しいチームを作るための過渡期だったと評価できるかもしれない。

一方で、同じ問題が繰り返され、対応策も見られないのであれば、批判はより強い根拠を持つことになる。

結論――コヴァーチが間違っているのではなく、正しい理想を現在の千葉で実現できるかが問われている

ここまで千葉ジェッツについて考えてきたが、自分はコヴァーチHCの戦術的な思想そのものを否定すべきではないと思っている。

前から仕掛けるディフェンス。素早いトランジション。選手全員の連動。複数の選手を活用するローテーション。

これらは現代バスケットボールにおいて十分に合理的な考え方だ。

そして、富樫、渡邊、ネイト、コステロのような選手が揃っているのであれば、本来は非常に面白いバスケットボールを実現できる可能性がある。

しかし、バスケットボールにおける優れた戦術とは、理論的に正しい戦術のことではない。その選手たちが、実際に高い確率で遂行できる戦術のことだ。

どれほど優れたシステムでも、選手の長所を制限してしまえば意味がない。どれほど運動量の多い守備でも、最後のリバウンドを確保できなければ意味がない。どれほど平等に選手を起用しても、勝利につながる組み合わせを作れなければ意味がない。

そして、どれほど将来性のあるHCでも、試合中に起きている問題を修正できなければ勝つことは難しい。

ただ、一つだけ忘れたくないことがある。

現在の千葉ジェッツは、開幕前に構想していたチームと同じではない。

コステロとランドルフが離脱し、メイとギルが新しく加わった。しかも、コヴァーチ自身が目指しているのは、選手同士の連動性を非常に重視するバスケットボールだ。

その状況で完成度が低いことには、合理的な説明がつく。だからこそ、単純に「監督の能力が低い」と結論づけるのは早い。

一方で、負傷者の存在を理由に、すべての問題を免責することもできない。

実際、神戸戦では8点リードから最終クォーターに逆転され、横浜戦でも6点リードを守り切れなかった。ここにはHCが改善しなければならない問題がある。

特に今後、コヴァーチが証明すべきなのは、欧州で学んできた理想的なバスケットボールをそのまま再現する能力ではない。

現在の千葉ジェッツに所属する選手たちの能力を最大化するために、自分の戦術を変えられる能力だ。

優れたHCは、選手をシステムに合わせることができる。しかし、本当に優れたHCは、システムを選手に合わせることもできる。

富樫がいるなら、富樫にしか作れない優位性を利用すればいい。ネイトが得点できるなら、その得点力を最大限に生かせばいい。渡邊が何でもできるなら、何でもやらせるのではなく、最も価値の高い役割を与えればいい。メイがパスをつなげるなら、コステロの代わりとしてではなく、メイを中心にした新しい攻撃を作ればいい。

そして、守備に問題があるなら、理想のプレッシャーディフェンスに固執するのではなく、相手に応じて最も失点を減らせる方法を選択すればいい。

バスケットボールは、最も美しい戦術を実行したチームが勝つ競技ではない。最も優秀な選手を5人並べたチームが必ず勝つ競技でもない。

その日の相手に対して、5人の能力を最も効果的に組み合わせたチームが勝つ競技だ。

千葉ジェッツの問題は、才能の不足ではない。むしろ、才能が豊富だからこそ、それぞれにどのような責任を与えるべきかという難しい問題を抱えている。

コヴァーチに求められるのは、全員に同じバスケットボールをさせることではない。それぞれの選手が違う能力を持っているからこそ、5人が一緒にプレーしたときに最大の価値を生み出せるようにすることだ。

そして千葉ジェッツのファンが本当に求めているのも、欧州で評価された戦術を見せてもらうことではないはずだ。

富樫が富樫らしくプレーする。渡邊が渡邊らしくプレーする。ネイトの得点力がチームの勝利につながる。若手が成長しながら、チームとしても強くなる。

そのような千葉ジェッツを見たいのではないだろうか。

だからこそ、今の段階でコヴァーチを無条件に擁護する必要もなければ、すべての責任を押し付ける必要もない。

問うべきなのは、もっと具体的なことだ。

コヴァーチHCは、自分の理想と現在の選手たちとの間にあるズレを、どれだけ早く埋められるのか。

そこに、2026-27シーズンの千葉ジェッツが復調するための最大の鍵があると思う。

主な参考資料

今回の記事では以下の一次資料・取材記事を参照した。戦術面の提案は、これらを踏まえた分析であり、HC本人が採用を明言した戦術とは区別している。

・バスケット・カウント(2026年8月25日)|コヴァーチHC就任インタビュー

https://www.bleague.jp/media_news/detail/id=620584

・Jbasket(2026年10月4日)|コヴァーチHCと富樫勇樹の試合後取材

https://jbasket.jp/国内/b-leag/62158.html

・千葉ジェッツ公式|マット・コステロの負傷について

https://chibajets.jp/news/detail/id=27236

・千葉ジェッツ公式|ブランドン・ランドルフの負傷について

https://chibajets.jp/news/detail/id=27133

・B.LEAGUE公式|千葉ジェッツのチーム・個人成績

https://www.bleague.jp/club_detail/?TeamID=704

・B.LEAGUE公式|2026年10月12日 横浜BC対千葉J

https://www.bleague.jp/game_detail/?ScheduleKey=506459&tab=2

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