今日で夏休みが終わる、あるいはもうすでに新学期が始まっている、という地域も多いと思います。
この時期になると、毎年「子どもの自殺」に世の中の注目が集まります。報道や投稿で「夏休み明けは子どもの自殺が増える」「9月1日に気をつけて」といった言葉を、皆様も一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
9月1日は、確かに大事な日です。 その日に向けて声を上げてくださっている方々のおかげで、救われている子どもがいることも間違いないと思います。
ただ、それでもなお、私が今日書いておきたいことがあります。それは「この時期さえ乗り越えれば大丈夫、ではない」ということです。
正直に言うと、この記事も「夏休み明けという流れの中で読まれる」ことを分かった上で書いています。それでも今書くのは、この注目を、この時期だけで終わらせたくないからです。
少し長くなりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
子どもの自殺が多いのは、9月。でも、9月だけではない
2025年、小中高生の自殺者が最も多かったのは9月(62人)でした。
ただ、内訳をもう少し見てみると、1月は51人、10月は52人、11月は50人。ほとんど並んでいるんです。さらに言えば、2023年に一番多かったのは9月ではなく10月でした。

「夏休み明けは要注意」。それ自体は間違っていません。ただ、「要注意の時期を過ぎたから、ひと安心」とはならないということを、私たち大人は知っておく必要があると思うのです。
大人の自殺は減った。けれども、子どもの自殺は増え続けている
2025年、小中高生の自殺者数は538人となり、統計のある1980年以降の最多を2年連続で更新しました。
一方で、全体の自殺者数は19,188人。初めて2万人を下回り、過去最少となりました。この数字が何を意味するか、お分かりでしょうか?大人の自殺は減り続けているのに、子どもの自殺だけが「減らずに増え続けている」のです。実際、2025年はほとんどの年齢層で自殺者数が減少する中、19歳以下だけが増加しています。
(※本記事の数値は、警察庁・厚生労働省「令和7年中における自殺の状況」によるものです)
この状況の中で、今回は皆様と一緒に、「私たち大人にできることは何か」を考えていこうと思います。
子どもはSOSを出したくても出せない
国は「SOSの出し方」を子どもたちに教育していますが、現場の実感として言わせてください。子どもは、SOSを出したくても出せないんです。SOSを出そうとした時に、「迷惑をかけるんじゃないか」「怒られるんじゃないか」「見捨てられるんじゃないか」……そんな葛藤の中で、声を上げられずにいる子どもたちが大勢います。
だからこそ、大人が「受け止める準備」をしておく必要があるのです。
もし、この投稿を見ている方の中で、「子どもの未来を守りたい」と願っている方がいたとしたら。どうか今の時期だけではなく、一年を通して子どもに肯定的なまなざしを向け、「いつもと違うな」と思った時には優しく声をかけてあげてください。
そして、もし子どもからSOSが出された時には、どうかそのSOSを受け止めてあげてください。
「どうやって受け止めれば良いのか分からない」 「変に聞いて、逆に自殺を後押ししてしまったらどうしよう…」
そう不安に思う方もいるかもしれません。そんな方は、『TALKの原則』を参考にしてみてください。
いざという時の道しるべ『TALKの原則』
TALKの原則『Tell Ask Listen Keep safe』

※文部科学省「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」等で紹介されている基本原則
Tell:言葉で心配していると伝える
心の中で思っているだけでは伝わりません。「最近あんまり眠れてなさそうだけど、眠れているかな?」「元気なさそうに感じたんだけど、ちょっと心配だよ」といったように、「私はあなたを心配している」という思いを言葉にして、ストレートに伝えましょう。何気ない「心配しているよ」の一言が、子どもの心に「自分は気にかけられている存在なんだ」という安心感を残します。
Ask:「死にたい」気持ちについて率直に尋ねる
ここが一番、大人が怖がるところです。「死にたいなんて聞いたら、逆に自殺を意識させてしまうんじゃないか?」と不安になるのも当然です。
でも、安心してください。「死にたい気持ちについて聞くことで、自殺のリスクが高まることはない」ということが、研究でも明らかになっています(Dazziら, 2014)。むしろ、「気持ち(死にたい)を認めて聞いてくれた/受け止めてくれた」という安心感が、子どもの孤立感を和らげるのです。
「どんな時に死にたいって思うのかな?」 「死にたい気持ちはどのくらい強いのかな?」
このように率直に尋ねることは、決してタブーではありません。子どもの「死にたい」という気持ちから逃げずに知ろうとする、誠実な対応なのです。
Listen:絶望的な気持ちを傾聴する
子どもの話を遮らずに最後まで聞きましょう。ここでやらないでほしいのが、「命は大切にしなきゃダメだよ」という正論や、「生きていればいいことあるよ」という無責任な説得です。そんなことは、子ども自身が一番分かっています。分かっているけど、自分の事を大切にできないほど苦しいから「死にたい」と言っているのです。
必要なのは、評価や判断をせず、「それほどまでに苦しかったんだね」と、その子の絶望をありのまま受け止める態度です。そして、もし余裕があれば「そんなに辛い状況の中で、どうして今まで生きてこられたの?」と聞いてみてください。「ゲームがあったから」「推しがいたから」「今、こうやって話すまでは死なないって決めてたから」…。それがその子の今を支えている「保護的因子(生きる支え)」だと気づくことでしょう。
Keep safe:安全を確保する
その子が置かれている環境や状況が危険なものであれば、すぐさまそこから子どもを引き離しましょう。もしあなた一人で子どもの安全を確保できない場合は、迷わず誰かに助けを求めてください。「子どもを助けるために、あなたが助けを求める」。これは恥ずかしいことでもなんでもありません。
【要注意】これだけは言わないでほしい言葉
もし、子どもが勇気を出して「死にたい」と打ち明けてくれた時。絶対に言わないでほしい言葉があります。それは、
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
これは、一見心配しているように聞こえますが、「言わなかったあなたが悪い」という責任転嫁の言葉として子どもに刺さります。おそらく、心配だからこそ、子どものことを思うからこその言葉だと思います。しかし、その子が「死にたい」と言えたその瞬間こそが、その子が最も早く「死にたい」を打ち明けられたタイミングだということを、私たち大人は忘れてはいけません。勇気を出して「死にたい」と言えたのに、「早く言ってくれれば…」と遠回しに否定されれば、「やっぱり言わなきゃよかった」と後悔させ、次のSOSを封じてしまいかねません。
何度も言いますが、「死にたい」と言える子は、本当に少ないですし、むしろ私たち大人は「死にたいと言える子はいない」という前提で子どもに肯定的なまなざしを向ける必要があると思うのです。
「死にたい」という、それほどまでに重く、口から出すにも勇気のいる言葉を、あなたを選んで伝えてくれた。だからこそ、まずは「話してくれてありがとう」と、その勇気を全力で讃え、受け止めてほしいのです。
「死にたいなんて言わないで!」と否定したり、「美味しいパフェでも食べよう!」と話を逸らしたり、「寝たら嫌なことも忘れるよ!」と軽く流したりせず、ただ受け止める。「命は大切だけど、それ以上にあなたが大切なんだよ」というメッセージを、態度で示し続けてください。
最後に:あなたのその一言が、子どもを救う
小中高生の自殺者数は、2020年に急増して以降、500人前後の高止まりが続いています。2022年に514人と当時の過去最多となり、2023年は513人とほぼ横ばい。しかし2024年は529人、2025年は538人と、じわじわと最多を更新し続けています。このつらく、苦しい状況で私ができることは何かと思い、このような長文投稿をさせていただきました。
「看護師が何を大っぴらに意見しているんだ」と言われたらそれまでなのですが、現場で子どもたちと関わる一人の支援者として、子どもたちの未来を守るために、私はこれからもめげずに発信していきたいと思います。
最後に改めてお願いです。どうか皆さま、子どもの様子を見て「いつもと違うな」と思ったのであれば、夏休み明けのこの時期に限らず、「心配している」と声をかけてあげてください。あなたのその一言が、子どもを救うかもしれないのです。
この記事を読んでいるあなた自身が 一人で抱え込まず、どうか誰かに話してみてください。
【子ども・若者の相談先
・チャイルドライン(18歳までの子ども専用):0120-99-7777(毎日16時〜21時、年末年始を除く)
・24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(24時間365日)
・SNSで相談できる窓口の一覧は、厚生労働省「まもろうよ こころ」で検索してみてください
【大人の相談先】
・#いのちSOS:0120-061-338(24時間365日)
・いのちの電話:0120-783-556(毎日16時〜21時)
・こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
【出典・参考資料】
・警察庁・厚生労働省「令和7年中における自殺の状況」(2026年3月)
・Dazzi, T., Gribble, R., Wessely, S., & Fear, N. T. (2014). Does asking about suicide and related behaviours induce suicidal ideation? What is the evidence? Psychological Medicine, 44(16), 3361–3363.
・文部科学省「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」(2009)
※本記事の数値は2026年8月時点のものです。本記事は、noteにも同内容を掲載しています。





