『何から手をつければいいか分からない』なら、答えは一つだ。システム化ではなく、まず削ることを疑え。
前回、システム開発の失敗は経営者の知識不足ではなく構造の問題だと書いた。今回はその構造を前提に、発注者側が実際に取れる、最初の一手について書く。何から手をつければいいか分からないときに『とりあえずシステム化する』を選ぶのは、最も高くつく一手だ。この順番を間違えると、非効率な業務プロセスに、そのままお金をかけて自動化するだけに終わる。
■ 「システム化=解決」という思い込み
発注相談を受けていると、最初に出てくる言葉はたいてい同じだ。「うちの業務は非効率だから、システムを入れたい」。だが、詳しく聞いていくと、システム化以前に解決できる無駄がほとんどのケースに埋まっている。
たとえば、ある会社の見積書業務。営業担当がシステム上で見積書を作成できるようにしたが、社内承認は従来通り紙の稟議書に印刷して回す運用のままだった。承認後、担当者はシステム上の見積データを見ながら、稟議書にもう一度金額を手で書き写す。システム化されたはずなのに、業務全体で見れば「システムで作って、紙に書き写す」という工程が新たに増えただけだった。原因は、システム化する前に「紙の承認フローは、そもそもなくせないか」を誰も検討していなかったことにある。このシステムには数百万円規模の投資が行われていたが、削れたはずの無駄をそのまま自動化しただけの結果、投じた費用の大半は事実上失われたに等しい。
■ 足す前に、削る
業務改善には古くから「ECRS(イクルス)」という考え方がある。Eliminate(なくせないか)、Combine(まとめられないか)、Rearrange(順番を変えられないか)、Simplify(単純化できないか)。この4つを検討し尽くした後に初めて、Automate(自動化=システム化)を検討する、という優先順位だ。
多くの発注担当者は、この順番を飛ばして、いきなり最後の「自動化」から着手してしまう。結果、なくすべきだった業務、まとめられたはずの二重入力、単純化できたはずの承認フローが、そのままシステムに焼き付けられる。出来上がるのは「速く、正確に、無駄なことをやり続けられるシステム」だ。皮肉なことに、それでも「システム化した」という実感だけは得られてしまうため、根本の無駄には誰も気づかない。
ここまでの話は、前回書いた「システム開発の失敗は、経営者の知識不足ではなく構造の問題である」という指摘の延長線上にある。ECRSの順番を飛ばしてしまうこと自体が、まさにその「構造」の一部だ。
■ 判断のための4つの質問
システム化を検討する前に、次の4つを順番に自問してほしい。
・その業務は、そもそもなくせないか(Eliminate)
・複数の業務や部署の作業をまとめられないか(Combine)
・作業の順番や担当を変えるだけで改善しないか(Rearrange)
・やり方自体をもっと単純にできないか(Simplify)
この4つの答えが出尽くして、それでも残った業務だけが、初めてシステム化を検討する対象になる。逆に言えば、この4つを一度も検討せずに要件定義に入っているなら、その時点で失敗の種はすでに蒔かれている。
■ 「それでも早く導入したい」という声にどう向き合うか
「悠長に検討している時間はない、早くシステムを入れたい」という反論もあるだろう。だが、ECRSの検討には、多くの場合数日から数週間しかかからない。一方、検討を飛ばして進めたシステム開発が要件定義からやり直しになれば、失われる時間は数か月単位だ。急ぐつもりが、遠回りになる典型的なパターンである。
もう一つの反論は「現場の業務は複雑で、外部の型に当てはめられない」というものだ。だが、ECRSは業務の中身を知らなくても使える。中身を知っているのは現場の担当者であり、ECRSはその担当者に「なくせないか」「まとめられないか」と問いを立てさせるための、単なる質問の順番にすぎない。専門知識がなくても、今日から使える。
■ 明日からできること
大掛かりな体制は必要ない。今抱えている「システム化したい業務」を一つ選び、上の4つの質問に答えてみるだけでいい。多くの場合、最初の質問(なくせないか)の時点で、検討していなかった選択肢が見つかる。
「何から手をつければいいか分からない」という悩みの正体は、たいてい「システム化するかどうか」ではなく、「システム化の前に何を検討すべきか」を知らないだけだ。順番さえ間違えなければ、判断はそれほど難しくない。
次回は、「人が辞める」という、経営者にとって最も普遍的な痛みを取り上げる。離職率という数字の裏にある、組織の仕組みの話だ。
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