「最近どうですか、何か困っていることありますか?」
「特にないです」
「そうですか、じゃあ引き続きよろしく」
この会話、心当たりがある管理職の方は多いのではないでしょうか。
毎週30分、律儀に時間を確保している。でも毎回「特にないです」で終わる。何かを聞き出せているわけでもない。何かが変わっているわけでもない。ただ時間だけが過ぎていく。
「1on1って、本当に意味があるのか」と思い始めたとき、まず疑ってほしいのは部下ではなく、聞き方の方です。
「特にないです」は、本音ではない
部下が「特にないです」と言うとき、本当に何もないことはほぼありません。
困っていることがある。モヤモヤしていることがある。言いたいことがある。でも言わない。
なぜか。
「評価する人に弱みを見せたくない」からです。
1on1の相手は、自分の評価者です。「できない人と思われたくない」「この悩みを話したら、仕事を任せてもらえなくなるかもしれない」。そう考えれば、「特にないです」と言うのは、至極合理的な判断です。
つまり「特にないです」が続くのは、部下に話すことがないのではなく、話せる関係がまだできていないということです。
これは責める話ではありません。構造の問題です。
「何か困っていることありますか?」が機能しない理由
1on1で最もよく使われる質問は、おそらくこれです。
「何か困っていることありますか?」
でもこの質問、ほぼ機能しません。
理由は二つあります。
一つ目は、「困っている」という状態を認めることへの抵抗です。困っていると言うことは、できていないことを告白することに近い。それを評価者の前ではできません。
二つ目は、質問が抽象的すぎることです。「何か」と聞かれても、何を話せばいいかわからない。人間は、広すぎる問いには答えられないのです。
だから「特にないです」で終わる。
コンカーで12年、何百回という1on1をやってきました。そこで気づいたのは、本音を引き出す問いと、本音を閉じる問いがある、ということです。
「何か困っていることありますか?」は、本音を閉じる問いです。
本音が出る問いと、出ない問いの違い
本音が出る問いには、共通点があります。
「評価されない話」から始まっていることです。
たとえばこういう問いは、本音を引き出しやすいです。
「最近の仕事で、一番楽しいと感じた瞬間はどんなとき?」 「逆に、やっていてエネルギーが下がるなと感じる場面はある?」 「もし今の仕事を自由に変えていいとしたら、何を変えたい?」
これらの問いには、「できる・できない」の評価軸がありません。だから防御しなくていい。正直に答えてもリスクがない。
困りごとではなく、感情から入る。
これだけで、1on1の中身がまったく変わります。
「正したい反射」を止めること
もう一つ、1on1で気をつけてほしいことがあります。
部下が話しているとき、「でも」と言いたくなる瞬間があります。
「先週の件ですが、実はこうしたらよかったんじゃないかと思っていて……」
「でもそれは、〇〇だからこうすべきだよ」
これを「正したい反射」といいます。相手を助けたい、正解を教えたいという善意から来ている衝動だから、抑えにくい。しかも経験のある管理職ほど、この反射は強くなります。
でも押せば押すほど、相手も押し返してくる。
「わかりました」と言いながら、もう聞いていない。引き出す1on1ではなく、伝える1on1になってしまいます。
コーチングの世界によく知られた言葉があります。「馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」と。
部下が変わるかどうかを決められるのは、部下自身です。上司にできるのは、自分で気づく問いを渡すことだけ。
「でも」と言いかけたとき、一度黙ってみてください。
その沈黙の後に出てくる言葉が、本質です。
「受け取る力」が、1on1を変える
1on1を変えるために、もう一つ重要なことがあります。
それは、上司自身が「受け取る力」を持っているかどうかです。
部下がせっかく本音を話してくれたとき、上司がどう反応するかで、次に話してくれるかどうかが決まります。
「そうか、教えてくれてありがとう」 「それは気づかなかった。もう少し聞かせてもらえる?」
こういう反応をする上司のもとには、次も話が来ます。
「それは違うよ」「でもそれは〇〇だから」という反応をする上司のもとには、次は「特にないです」が来ます。
伝える力より、受け取る力。
これをコーチャビリティといいます。マイケル・ジョーダンはこう言っています。「自分の最も優れた資質は、コーチャブルであったことだ」と。史上最高のバスケ選手が、運動能力でも得点力でもなく、これを選んだ。
受け取る準備ができている人のもとに、声は自然と集まってきます。
明日の1on1で、一つだけ変えてほしいこと
ここまで読んで、「そうはいっても、どこから変えればいいか」と思っている方に、一つだけお伝えします。
最初の一言を変えること、それだけでいいです。
「最近どうですか、何か困っていることありますか?」を、
「最近の仕事で、楽しいと感じた瞬間ってありましたか?」に変えてみてください。
業務の話から入ると、そのまま業務の話で終わります。感情の話から入ると、そのまま感情の話が続きます。
これだけで、相手の顔が変わるはずです。
1on1は、技術です。センスではなく、問いの設計と、聞く姿勢で変わります。
「特にないです」が続いているなら、変えられます。
おわりに
この記事に書いたことは、私がコンカーの社長として12年間、失敗と試行錯誤を重ねて辿り着いたことをまとめたものです。
「正したい反射」も「受け取る力」も、最初から持っていたわけではありません。
自分が沈黙の組織を作っていたことに気づいてから、ようやく変わり始めました。
この経験を体系的にまとめたのが、「フィードバック経営」(日経BP)です。
本日、日経新聞に広告を掲載していただきました。

おかげさまで、発売からわずか2日で3刷重版が決定しました。各書店でも、続々と1位をいただいています。
- 三省堂書店 有楽町店(ビジネス書 6/1〜6/7)
- ジュンク堂書店 池袋本店(ビジネス書 5/31〜6/6)
- 三省堂書店 池袋本店(ビジネス書 5/30〜6/5)
- ブックファースト 新宿店(ビジネス書 5/31〜6/6)
「沈黙の組織を改善したい」と願う方々の、切実な思いの表れだと受け止めています。
1on1の設計から、フィードバックの渡し方、組織としてのフィードバック文化の作り方まで、具体的な手順を書きました。「特にないです」と言われなくなった1on1がどんなものか、ぜひ体験していただければと思います。
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