あれこれ手を出す前に、まずは一つのことを極めよう

@ysk_motoyama
日本語2026年8月08日
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TL;DR

マルチタスクは、タスク切り替えのコストや注意の残留(attention residue)により、中途半端な結果を招きがちです。一つのコアプロジェクトに 100% 集中することで、複雑なワークフローを効率的にこなすために必要な暗黙知を養うことができます。

  • 職場でたまに見かけるタイプがいます。プロジェクトAの定例にもBのキックオフにもCの分科会にもいて、カレンダーは会議でびっしり埋まっているので、本人はたぶん「仕事した気」になっているはず。がしかし、蓋を開けてみると、どのプロジェクトでのアウトプットも、同じような中途半端さで仕上がっています。
  • やっつけ仕事なので当然修正が必要になり、その修正をあちこちで別の誰かがやらされている。そういう、う〇こ撒き散らかし野郎はいないでしょうか?
  • そういう人を見るたびに思います。いろいろ手を出す前に、まず1つでいいから、小さいことでいいから、1つのことを本気でやってみるのが大事なんじゃないかと

50%+50%は100%にならない

  • 複数のプロジェクトを掛け持ちするのは、器用な人にしかできない芸当です。人間はもともと、マルチタスクが苦手だからです。
  • 「注意残余」という概念があります。ミネソタ大学のソフィー・リロイが2009年に提唱したもので、タスクAからBに切り替えても「あれ、まだ終わってないな」と注意の一部はAに残ったままになる、というもの。実際リロイの実験では、この残余が大きいほど、次のタスクの成績が下がることが示されています。
  • 2つのプロジェクトに50%ずつで入っても、Aの作業中もBのことが気になって脳内で10%くらいロスします。「Aに50%稼働」のはずが、実際にAに割けているのは40%くらい。Bをやっている間も同じことが起きて、Bも実質40%。合計80%で、20%分の稼働がどこかに消えているわけです。
  • この「掛け持ちしていると20%くらい稼働が溶ける」という体感値は、ソフトウェア工学の古典であるジェラルド・ワインバーグの試算とほぼ一致します。2プロジェクトを掛け持ちするとタスク切り替えのコストが20%発生し、各プロジェクトに割ける時間は40%ずつになる、という見積もりです。
  • なお、同時に2つの認知課題をこなしても成績が落ちない人は、実験参加者の約2.5%だけいた、という報告もあります。そういう例外の人も、いるにはいます。
  • だからコンサル会社でも、50%ずつの掛け持ちアサインをされるのは、すでに高いパフォーマンスを証明している優れた人。複数プロジェクトの掛け持ちは、それをこなせる一部の人の特権だと思っておくくらいがちょうどいいのではないでしょうか。

なぜ人は「掛け持ち」したがるのか

  • 人間はそんなに器用にできていないのに、なぜ複数のプロジェクトを中途半端に掛け持ちしたがるのか。1個のことにコミットすると、逃げ場がなくなるからだと思います。「他のタスクもやっていて忙しいんです」という言い訳が立たなくなりますから。
  • 「俺まだ本気出してないだけ」って言葉と構造は一緒です。あのプロジェクトもこのプロジェクトも、ちょっとずつ仕事やった風にしておけば、1個の真剣勝負で負けずに済むんですよ。
  • リスクヘッジのために、やっつけ仕事をあちこちに広げて、まぶすんですよね。自分の自信のなさを。

やっつけ仕事は、ぜんぶ見られている

  • 残酷なお知らせですが、やっつけ仕事でやっているというのは、周りにバレています。見ていないようで、みんな見ています。何も言わないだけで、「あー、これまた直してあげないといけないやつだな」と思いながら、黙って直してくれているだけ。
  • フィードバックというのは、伝える側にとってかなり体力を使う行為です。だから誰かが「ここ、もうちょっとこうしてくれるといいんだけど」とわざわざ口に出して言ってきたとしたら、その人はたぶん、心の中で20回くらい同じことを思っています。
  • 5人いれば1人20回は心の中で「いい加減な仕事しやがって」と思っているわけですから、合計100回くらいそう思われている計算です。面と向かって言われるフィードバックは、氷山の一角なのです。

まず1つ、ど真ん中の仕事に100%フルコミットなり

  • 小さいことでもいいので、自分の所属している部署のど真ん中の仕事に、まず1個、逃げずに集中してみる。同じことをずっと繰り返していると、だんだんこなれてきて、最初は意識しないとできなかったことが、無意識にできるようになります。
  • ゴルフのスイングと同じです。最初は、頭の位置、前傾の角度、グリップ、ボールを置く位置、足の幅、バックスイングの角度…と、ぜんぶ意識しないと打てません。でも続けていると、あまり意識しなくても勝手に体が動くようになります。
  • 仕事もまったく同じで、1つのことに集中して成果を出し続けると、暗黙知のレベルで安定したパフォーマンスが出せるようになります。そうなって初めて、マルチタスクやプロジェクトの掛け持ちができるようになるんです。
  • 理由はシンプルで、慣れている仕事なら、脳のリソースをほとんど使わずにうまくやれるから。注意残余の奪い合いが、そもそも起きにくくなるんです。
  • 今でこそ自分の会社を経営しながら、会社員としての仕事もやりながら、いろんなプロジェクトを掛け持ちする働き方をしていますが、そうなるまでは、ずっと1つのことにコミットしていました。四捨五入すると、キャリアの最初の6〜7年は、システムを入れて業務を刷新するプロジェクトしかやっていません。ぶっちゃけ。
  • かっこよく「この1つを選び抜いた」と言いたいところですが、たまたま配属でそうなっただけ。ただ、そこで同じ領域にとりあえずコミットしてみたことが後々けっこう役に立っている気がします。
  • このシステムを使った業務効率化系の仕事でそれなりに身に着いたのが、「暗黙知を言語化する」こと。システムで業務を標準化して効率化するには、現場の人が暗黙知でやっている業務を、暗黙知ごと言語化・構造化しないといけない。言語化されていないものは、システムでは動かせないので。
  • これを6〜7年やり続けた結果、無意識レベルでできるようになりました。このスキルが、AIを動かすためにロジックを言語化する場面や、論理思考の講師として「考えるとき、頭の中で何をやっているか」を言語化して伝える仕事に、いま思わぬところで生きています。
  • だから、いきなり副業だなんだと、こねくり回さなくても大丈夫です。まず、目の前の1つのプロジェクトに100%、なんなら120%で集中する。そういう姿を周りは必ず見ています。
  • 小さなことでも1つの仕事に徹底コミットしてくれた人には、「次はこれをお願いしたい」とか「この案件を一緒にやろう」と声をかけたくなるものです。

最近いろいろと中途半端に手を出し過ぎているなと思ったので、自戒メモでした。

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