「もっと自走してほしい」。そう言われた、もしくは、そう思われている気がする。
でも、自分では止まっているつもりはない。動いているし、考えてもいる。指示されたことはすぐに反応して、手も抜いていない。それなのに「自走できていない」と言われると、何を求められているのか分からなくなります。
そして厄介なのは、その「自走力」が何なのかを、誰も具体的に説明してくれないことです。「自分で考えて動いて」と言われても、何をどう考えればいいのかまでは教えてもらえない。便利なのに、中身が空っぽのまま使われている言葉です。
なので、自分のメモ用に分解してみました。動いているのに「自走できていない」と言われるとき、おそらく足りないのは努力の量ではありません。動き方の中身です。
自走力を構成する3つの力

まず自走力を分解すると要素が3つあり、
【1】ラストマンシップ:結果を、自分が引き受ける力。「誰かがやる」ではなく「自分がやる」に向いている当事者性。
【2】目的変数:現実が動いたかどうかを、完了の基準にできる力。「ちゃんとやった」ではなく「物事が前に進んだ」をゴールに置けるかどうか。
【3】止まらずに動く:わからなくても、怖くても、やる気が出なくても前に進む力。壁の前で、止まる理由ではなく動く理由を探せるかどうか。
この3つが揃うと、「指示の範囲をこなす人」から「現実を動かす人(=自走力のある人)」に変わります。
「実行者」と「仕事人」は、立っている場所が違う
そもそもで誤解しているケースがあるのですが。仕事人の役割は「全部を自分で実行すること」ではありません。むしろ逆で、抱え込むほど仕事人から遠ざかります。
ゴールを定義し、足りないケイパビリティを見極め、必要なら上司も巻き込み、リソースを組み替えて、アウトカムまで運び切る。これが仕事人の使命です。
同じタスクでも、実行者と仕事人では立っている場所が違います。
●実行者
与えられたタスクをこなす人。指示の範囲で動き、手が止まれば待ち、担当外は見ない。自分の作業が終われば完了です。
●仕事人
アウトカムを動かす側に立つ人。自ら動き、足りないピースは自分で調達し、船頭として担当外まで引き受ける。完了の定義は、現実が動いたかどうか。
プロとして現場に立つとは、この「動かす側」であり続けることです。社内外も、役職も、経験年数も関係ありません。この姿勢そのものが、自走力の実装です。
【1】ラストマンシップ:結果を、自分が引き受ける
これがなければスタート地点にまだいない、ラストマンシップ。
ラストマンシップは、こういう場面で剥き出しになります。
- プロジェクトが炎上したとき、「自分はやることはやった」で終わる人と、「最後まで自分が持つ」と腹をくくる人。
- 「なぜこうなったんですか」とクライアントに詰められたとき、「担当者に確認します」と逃げる人と、その場で全部答える人。
- 「これどうなってる?」と上司に聞かれたとき、「〇〇さんに任せています」と返す人と、「自分が把握しています」と言える人。
ラストマンシップとは、「この仕事について、いつ誰に何を聞かれても、自分が全部答えられる状態で向き合っているか」です。お金の話でたとえるなら、連帯保証人になれるか、という感覚に近いと思います。
なので、他責型と無関心型の人はアウトです。他責型は「誰かがなんとかしてくれる」と外に期待する依存の状態。無関心型は「どうなろうと自分の話じゃない」と、結果から切れている状態です。
ラストマンシップのある方は、「やらないと怒られる」という外圧で引き受ける。「これは自分の仕事だ」という責任感で引き受ける。「自分がやらなければ現実が動かない」という当事者性で引き受ける。などなど。
動機の中身は問われないです。怒られたくないでも、評価のためでも、現実を動かしたいでも構いません。問われるのは方向だけです。「誰かがやる」ではなく「自分がやる」を向いているか。動機の純度を上げようとして止まるより、不純な動機でも引き受けて動いたほうが、現実は前に進みます。
【2】 目的変数:その仕事、どこで「完了」にしているか
ふたつめの目的変数は、完了条件をどこに置くか、という問題です。
ここは、デキる人ほど足をすくわれます。
自分基準の人:
「ちゃんとやった」で完了にします。仕事の質は高いかもしれません。けれど、目的がずれていても気づかない。やった感だけが残り、現実は1ミリも動いていないのに完了扱いになります。質の高さが、ズレを隠してしまうのです。NGです。
場の基準の人:
「みんなが納得した」で完了にします。会議やチームという「場」を動かすことが目的になっている状態です。惜しいのですが、場が納得しても現実は動かないことがあります。NGです。
事の基準の人:
「物事が前に進んだ」で完了にします。資料も合意も手段であって、目的ではない。仕事の目的と、自分の完了条件が一致している状態です。これです。
たとえば「資料をつくってほしい」というオーダーで考えると。
- 自分基準は「私の仕事だから、しっかり頑張る」。
- 場の基準は「みんなが納得すれば次に進める」。
- 事の基準は「資料がなくても、合意がなくても、キーマンさえ握れれば進められる」。
実は、多くの人はちゃんとラストマンシップを持っています。差がつくのはその意味づけのレベルです。
問いはひとつで、「現実を動かすことを完了条件」にできているか。
【3】 止まらずに動く:わからないまま、進む
ラストマンシップもあり、目的変数の基準があっていても、止まってしまうことがあります。
その原因は2種類あり、「やる気が出なくて遅くなる」と、「わからないから止まる」です。
やる気のほうは操縦できます。ダニエル・ピンクが『Drive』で挙げた「モチベーションをコントロールしやすくなる3要素」が手がかりです。
❶自律性
何を・いつ・どう進めるかを自分で決められる状態。「やらされている」から「選んでいる」へ主語が変わると、行動の質が変わります。
❷熟達
少し上を目指して試行錯誤する意識。できるようになる手応えそのものが、次の一歩の燃料になります。
❸目的意識
自分の仕事が誰かや社会につながっている感覚。「何のために」が見えているとき、短期的な負荷を引き受けられます。
この3つはなんとなく実感もあるかと思います。やる気があるときない時の差分がどこかに出ていると思います。やりたくない仕事の時に、これらは自分の考え方・取り組み方で作れるように仕向けます。
止まる理由で厄介なのは、もうひとつの「わからないから止まる」の方です。ここは慣れるととても簡単なのですが、若手の登竜門と言えるかもしれません。
シンプルな4ステップで抜けられます。
●STEP. 1 分からないを言語化する
「全部わからない」は思考停止のサインです。目的が不明なのか、範囲が不明なのか、手順が不明なのか。何が不明かを項目に切り出します。
●STEP. 2 分かる範囲で仮説化する
情報が揃うのを待たず、「恐らくこうだ」と仮の答えを置く。手元の材料だけで、現状と目指す姿を描いてみます。そして頭の中だけ考えてもすぐに止まるので、そこら中にアタりにいきましょう。(↓図参照)
●STEP. 3 仮説を起点に自ら動く
答えをもらうのではなく、仮説を検証しにいきます。全部を自分で作業する必要はありません。AIやリサーチを使う、詳しそうな人を上司のツテでたどる。情報を「取りにいく」動きそのものです。
●STEP. 4 動きながら精度を上げる
完璧を待たずに小さく動き、修正する。行動が新しい情報を生むからです。たたき台を出して、差分を埋めていきます。

「他社事例を来週までに調べておいて」と振られた場面で考えます。
止まる人は、何をすればいいか分からないまま固まり、最後に怒られます。動く人は、分からないことを書き出し、わかる範囲を仮説化し、自分から情報を取りにいき、取れない情報が出たら軌道修正する。同じ依頼でも、着地点はまるで変わります。
「わからない」は、止まる理由になりません。仮説を持てば、わからないまま動けます。
おわりに
自走力は才能ではなく、3つの力の組み合わせです。
- 結果を引き受けるラストマンシップ
- 現実が動いたかを基準にする目的変数
- わからなくても進む、止まらずに動く力
この3つは独立していません。ラストマンシップだけなら、頑張るのに的を外す人になる。目的変数だけなら、ゴールは見えているのに動けない人になる。3つが噛み合って、はじめて現実が動きます。
「もっと自走してほしい」。次にそう言われたら、努力の量で応えなくて大丈夫です。足りていないとすれば、この3つのどれかです。そこに立ち返れば、打ち手は具体的になります。実行者と仕事人を分けるのは、役職でも経験年数でもありません。立ち位置は、今日から変えられます。
自走力セルフチェック
明日から、大きく変える必要はありません。この問いを手元に置いて、仕事を受けるたびに一度立ち止まるだけで、立ち位置は変わりはじめます。
ラストマンシップ(結果を引き受ける)
□ 自分の担当業務を、いつ誰に何を聞かれても、その場で答えられる状態になっていますか
□ 「〇〇さんに任せています」と言いそうになったとき、「自分が把握しています」に言い換えられますか
□ 担当外でも、止まっている箇所を見つけたら、一度拾いにいけていますか
目的変数(現実が動いたかで完了を決める)
□ 仕事を受けたら、まず「何が変わったら完了か」を一行で書いていますか □ 「ちゃんとやった」ではなく、「現実が動いたか」で振り返っていますか □ 資料づくりや合意形成が、いつのまにか目的になっていませんか
止まらずに動く(わからなくても、やる気が出なくても進む)
A.「やる気が出なくて止まる」を操縦する
□ 進め方や順番など自分で決められる部分を見つけ、「やらされている」を「選んでいる」に変えられていますか(自律性)
□ いつもより少し上を狙い、できるようになる手応えを自分で拾えていますか(熟達)
□ この仕事が誰の役に立つかを言葉にし、「何のために」を見失っていませんか(目的意識)
B.「わからないから止まる」を抜ける
□ 「わからない」と感じたとき、何が分からないかを項目に分けて書き出していますか
□ 情報が揃う前に、「恐らくこうだ」という仮説を一つ置けていますか
□ 完璧を待たず、たたき台を先に出して、差分を埋めにいけていますか
全部にチェックがつく必要はありません。チェックがつかない問いが、いまの自分の伸びしろです。まずは一つ、今日の仕事で試してみてください。
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