「ウ、ウッ、ウミガメのスープでございます……」
血まみれのコックがウミガメのスープを出してきたけど明らかにウミガメじゃなくて困る。
コックのエプロンは血まみれだし、明らかに人の手形とかついている。われわれのいる場所は遭難した船の上だ。 えっ人肉じゃん?
「いや、ウミガメです。これはウミガメの肉です」
「ウミガメなんかなかっただろ」
「いや。えっと。ウミガメが急に来たので」
「なんだよ急に来たって」
「いきなり甲板にザバーってウミガメがあがってきたんですよ。それで『ボクウミガメ! ボクを食べてください!』って言うんで、こうね」
「こうねじゃないよ! 手塚治虫のブッダかよ……それにさっき、甲板のほうで乱闘みたいな音がしたけど?」
「ウミガメをしめてたので」
「でも『殺さないでくれ〜』って声がしたけど?」
「ウミガメが途中で気が変わったみたいで」
「ウミガメはしゃべらないが?」
「カメ、賢いですからね」
ネット論客のような食い下がりを見せるコックだった。
とはいえこっちも飢餓状態だ。ウミガメだと信じることにするしかない。わたしは目の前のスープ皿を見る。
「……明らかにヒトの爪が入ってるが?!」
「ウミガメのウロコですね」
「でかい心臓が入ってるけど?」
「ウミガメの心臓です」
「いや、明らかに心臓が2心房2心室なんだが? 哺乳類の心臓でしょこれ」
「ウミガメも心臓移植を受けることがあった。そういうこともね」
「ウソもうちょっとうまくついてよ……」
「ついてませんが?」
とにかくわたしはそのスープを口にした。
ンマーイ!
ウミガメのスープ、ンマーイ!!
「ウミガメのスープ美味しゅうございますね」
コックもスープにむしゃぶりついている。
「でっかい大腿骨がスープに入ってるが?」
「ああ、それは甲羅の破片ですよ」
「この肩甲骨も?」
「甲羅でございます」
「なんか銀色のドッグタグが出てきたんだが?」
「カメが呑んでたんでしょう」
スープの中から出てきたドッグタグには明らかに人間の名前が書いてあった。
「人間食べまくりタートルだったんでしょう」
「もう騙す気ないだろうお前」
わたしは爆笑し、コックも大爆笑した。 なにしろ極限状態でヒューマンを……もといウミガメを食べた直後だ。まともな精神状態のはずがない。
その後われわれは救助され……年月が経過。
「ウミガメのスープでございます」
あるレストランでわたしはウミガメのスープを大注文した。
正直、だいたい、わかっているけど、そろそろ、答え合わせをしないとなと、おもいました。
スープに乗って出てきたのは……。
「えっ、あのときと……」
わたしはスープの味を何度も確認した。
「あのときと同じ味じゃーん!」
もうね、びっくりですよ。
てっきりね、人食ってたと思ってたの、もう、だって普通わかるだろってね。あのシチュエーションであれが人肉じゃないってないだろって。
「そう、あなたの食べたのは本当にウミガメだったんですよ!」
レストランの奥からコックが現れた。コックはカートに乗せたウミガメを出してくる。
「でっか!」
「大きいでしょう(笑)」
コックが持ってきたウミガメのでかいこと。それにそのウミガメには人間の骨みたいな部位もあり、甲羅に手術痕もある!
うわやったあマジでウミガメだったんだ! そう思った。
もはや、わたしの食べたのが本当にウミガメだったのか、コックがわたしを騙し続けるためにこのモンスターを生み出したのか、わからない。
だが、もうそんなことはどうでもいい。コックのわたしを見るまなざしは、あのときも老いを重ねた今も変わっていない。
「生きてください」 その目はそう言っている。
生きよう。そう思った。
ウミガメだろうがヒトだろうが、喰らって喰らい尽くし、罪を背負って生きるそれが生と向き合うということなのだ。
そうコックは教えてくれた。
「おめでとう」
コックは拍手する。
ありがとうコック、ありがとうウミガメのスープ。
ここにいていいんだ!





