本日9月9日は『りゅうおうのおしごと!』大勝利ヒロインである空銀子さんのお誕生日!
命の大切さを感じるこの日に、銀子死亡ルートのプロットを公開します。
「銀子が死ぬ?何で?」という人は、こちらの記事を先に読んでみてください。
https://x.com/nankagun/status/2080594770146271337
https://x.com/nankagun/status/2081943108753985657
さて。
今年の9月で『りゅうおうのおしごと!』は、シリーズ開始から満10年を迎えました。
1巻発売が2015年の9月だったんです。
とはいえ取材開始はその4年前の2011年。
最初のプロットを切ったのもその年で、1巻の初稿は2014年の6月に完成しています。
その頃の原稿だと、キャラクターの名前も違っています。
主人公の九頭竜八一は、陣馬八一(もっと前のプロットだと武蔵野八一。なんで?)。
ヒロインの雛鶴あいは、桜木あい。
姉弟子だけはずっと「空銀子」のままだというのは以前の記事に書いた通りです。
ちなみに八一が獲得するタイトルも、竜王ではなく「棋聖」でした。
あれ? どこかの八冠と同じ……(本当ですよ!)。
作品そのもののタイトルも『あいがかり』で、『りゅうおうのおしごと!』になったのは2015年になってから。
主人公が獲得するタイトルを「竜王」にしようと思った時点で、八一の苗字も「九頭竜」に変わり、あいの苗字も「雛鶴」に変更にされています。
シリーズ全体のラストシーンまで考え終わったのは2015年8月で、1巻発売の直前になります。
この頃はまだ「ここまで書けたらいいな」くらいのつもりでした。
プロットを公開するのは初めてですし、しかも10年も前のものなので恥ずかしいですが……。
前置きが長くなりました。それではご覧ください。かなり長いです。
【銀子死亡ルート・プロット】
●8巻 『三段リーグ(上)』(※実際に出版した巻だと11巻)
天衣が挑戦者となった女王戦は、銀子のストレート勝ちに終わる。「暑くなる前に終わらせます」の宣言通りに夏前に終わらせる。
圧倒的な強さを見せつけた銀子だったが、初めて挑戦する三段リーグでは苦戦する。
原因不明の発熱を繰り返すようになる銀子。もともとその傾向があり、酷くなったのは初段になってから。誰にも言わなかったのは、それが勝負師として不利になると思ったから。
「肌が白いから暑さに弱いだけと思っていたけど……」と、気づかなかった自分を恥じる八一。
三段リーグ、初日から二連敗した対局の後、八一にだけ助けを求め、密かに一人暮らしをするアパートで苦しみながら眠る銀子。
そんな銀子を看病しながら、八一はその部屋で銀子の棋譜ノートを発見する。
そのノートを見ながら、銀子と初めて出会った日々、一緒に過ごした内弟子の日々、そして苦しかった奨励会時代を回想する。
三段リーグ時代の先輩や同輩たちと、厳しい中でも楽しい日々。
奨励会旅行の記憶などで登場した三段たちが、次の巻では銀子の敵として立ちはだかってくる。
●9巻 『三段リーグ(下)』(※実際に出版した巻だと12巻)
銀子は調子を戻し、勝ち星を重ねていく。
三段リーグは史上稀に見る大混戦となり、様々なドラマが生まれる。
銀子は最終日に東京で勝利を飾り、史上初の女性プロ棋士となるが、対局後に意識を失いそのまま還らぬ人となる。
銀子は死ぬ前に、うわごとで棋譜を諳んじる。最後は「2七銀」で終わる。それは八一と初めて指した将棋の棋譜だった(初めて対局して負けた時、銀子は対局の棋譜をつけていた。その棋譜ノートを前巻の看病の時に八一は見ている。それが回想の導入部分)。
銀子の身体は紫斑症によって、まるで殴られたかのような青あざだらけ。文字通り満身創痍だった。
発見されていれば死ぬような病気ではないが、三段リーグの参加を止められると思って隠し続けていた。
銀子の両親は娘のその姿を見て「もう戦わなくてもいいんだよ」と語りかける。
銀子の死によって繰り上がりで昇段を決める先輩奨励会員がいたが、奨励会員たちは総意として、その昇段を拒否する。その結果、退会となった奨励会員は「棋士としての私は死んだのかもしれません。それでも命までは取られない。文字通り命をかけた銀子ちゃんに、私たちは負けたんです」
銀子の葬儀の後に奨励会員たちが集まって、そこで退会する奨励会員が挨拶する。「すぐにまた、次の戦いが始まります。つらく、厳しく、でもかけがえのない青春の日々を……頑張れ、という言葉は嫌いなので、最後まで自分らしく戦い抜いてください」
八一のもとに、銀子の母親から手紙が届く。
つらすぎてまだ会って話すことはできないから手紙を書きます、という書き出しで始まるその手紙には、銀子がたまに実家に帰ってきたときに話す言葉は、つねに将棋と、年上の弟弟子の事ばかりだったと書かれていた。『あなたと過ごした日々は、娘のささやかな青春の全てでした。娘と一緒にいてくれてありがとう。空に還ったあの子と一緒に、いつまでも応援しています。』
その後、八一は人が変わったように棋風が変わる。
10月からの竜王戦。挑戦者は角換わりのスペシャリスト。
駒を並べるとき、銀の駒を摘んで、一瞬だけ手が止まる。慈しむように、そっと盤に下ろす。
竜王戦を迎え、第1局目。振り駒で後手を引いた八一。
先手の初手7六歩と角道を開ける手に、八一は少し考えて、4二銀と指す。誰もが驚愕する一手だった。
銀が大活躍したこの将棋を、八一は二日目の昼前に圧勝する。挑戦者は何もさせてもらえず、青くなって盤の前で凍えるように震えていた。
終わってみれば、挑戦者に何もさせない、圧倒的な力で竜王位を防衛する。その凄惨な、なぶり殺しのような虐殺ショーのような勝ちっぷりに、人々は八一をこう呼ぶようになる。「西の魔王」。
ここで第一部が終了。
(※先輩奨励会員……この時点で名前は決まっていませんが、後の鏡洲さんです。創多はまだいません。藤井聡太四段誕生が2016年なので当然ですね笑)
●10巻 『第二部 将棋界の一番長い日』(実際に出版した巻だと14巻)
4年後。
初代永世竜王となり、竜王七連覇、複数冠を保持する八一は、名実ともに棋界の第一人者となっていた。
あい、天衣、桂香たちもそれぞれ女流棋界で活躍している。銀子亡き後、女流棋界は戦国時代の様相を呈していた。
その中でも、あいと天衣は女王と女流王座をわけあい、女流棋界の双璧となっていた。
中学三年生になったあいは進学を考えるが、彼女は東京の高校へ進むと八一に告げる。
「東京へ行きます。そして奨励会試験を受けます」
その決断に八一は反対する。
だがあいも一歩も引かない。銀子を失った八一に振り向いてもらうためには、自身も同じ高みへ登らなければならないと感じていた。
八一は受験に反対し、「破門するぞ」とあいを脅すが、あいは別の師匠を見つけて受験を強行し、6年間の内弟子生活に終わりを告げる。
3月になり、あいは東京で奨励会試験を受けることになる。
あいが東京へ去ったのと同じ3月。
A級棋士となった八一は順位戦最終局・通称『将棋界の一番長い日』を迎える。
将棋連盟はA級順位戦最終局と、女流タイトルホルダーであるあいの奨励会試験を同日に行うという決定を下し、試験の様子はネットやテレビで放送される。
名人挑戦をかけた激しい戦いの末、八一は敗れ、挑戦者にはなれなかった。
同じ日に奨励会試験を受けていたあいは、特例での初段合格を果たす。
(※このあと15巻までプロットを切っていますが、省略して概要だけ示します。なお以下に記した概要も、2015年8月時点の全体構成メモに残されていたものです。)
●あいと天衣の決着
あいと天衣は別のアプローチで八一を銀子の呪縛から解き放とうとする。
あいは、銀子と同じステージに立とうとする。プロ棋士として八一と同じステージに立つことによって、八一の前に対等な相手として盤の前に座り、将棋を通して永遠に繋がろうとする。
ある意味、銀子の身代わりとしてでも八一に愛されようとするアプローチ。将棋の力で銀子を押しのけて自分がその場所に座ろうとする。
あいにとって将棋と恋愛は一体不可分で、どちらが上とかそういう問題ではない。
天衣は八一への愛情が将棋への愛情に勝る部分がある。
もともと親との繋がりを求めて将棋に逃避していた天衣にとって、親以上に愛する対象が現れた以上、その相手に愛されることが最大の目的であり、将棋を指す必要はない。
ただ八一との繋がりが将棋を通してのものなので将棋を捨てられないだけ。八一には、将棋ではなく自分(天衣)を一番大事に思って欲しいと考えている。
そのため、八一に対するアプローチも、将棋を排除したものになる。
「将棋以外の幸せなんて、いくらだってある」ということを八一に伝えようとする。だから同居もするし、自分から八一の側を離れたあいを許せない。
天衣はあいに将棋でも勝つことで、あいの心を折ろうとする。「偉そうなこと言ってるけど、あんた私よりも弱いよね?」
才能は天衣のほうがずっと上だったが、将棋への愛情が努力に繋がり、あいが実力で上回るようになる。好きだからずっと将棋のことを考えていたあいと、将棋を憎むようになった天衣との差。
新人王戦決勝で史上初・女流棋士対奨励会員としてぶつかった二人は、フルセットの熱戦の末に、あいの勝利で戦いを終える。
対局のあと、二人は和解する。「銀子から八一を取り戻すのは、私に勝つよりずっとずっと難しいわよ?」「うん。わかってる。でも勝つよ、絶対に」一緒の部屋で寝ずに語り明かす。
あいに負けた天衣は、八一のことをあいに託し、将棋から離れて海外へ行く。それは将棋に逃げ込んで心を閉ざしていた自分への決別・挑戦でもあった。
止めようとする八一に「一緒に行ってくれる? 将棋のない国に」と尋ねる。躊躇する八一に「やっぱりね」と笑いかけ、それから「素直になりなさいよ。師匠」と言って去る。銀子のことを忘れる罪悪感に囚われ続ける八一が、実はあいに惹かれていることを見抜いていた。
●ラストシーン
最後は八一とあいが、1巻のときのように将棋を指す。
家に帰るとあいが先に部屋にいて、初めて出会ったときと同じように八一を待っている(それとも、プロとして初めての公式戦(タイトル戦?竜王戦?)で、先に盤の前に座って八一を待つ?)。
「私が勝ったら弟子にしてください」
「俺が勝ったら?」
「勝つまでやります!」
銀を持ったとき胸に痛みを感じるが、それが少しだけ癒えているのを感じる八一。
ずっと、死んでしまった銀子のことを忘れて自分だけ幸せになってもいいのか、敗北して将棋界を去って行った仲間たちよりも自分が幸せになっていいか悩んでいたが、その呪縛から離れられるかもと思う。
将棋を指すことに疲れたり、苦しかったりするとき、その楽しさを思い出させてくれるのは、いつもあいだった。そんな幸せが将棋にもあることを八一は感じる。
●ラストシーン2
エピローグ的な部分。銀子の命日の話。
「九頭竜先生!」と呼ばれるところから入る。これは八一のことではなく、数年後に結婚して姓が変わった、あいのこと。
あいは弟子をどんどん取り、そのほとんどを内弟子にしてしまうので、九頭竜家はとんでもない子だくさんだとご近所さんたちには思われている。
外国へ行っていた天衣が訪ねてくる。天衣は医者になっている。そして病院にいる子供たちに将棋を教えている。
いかがでしたでしょうか?
かなり久しぶりに読み返してみたのですが、これはこれで綺麗な構成だなと思います。
銀子死亡から4年も時間が飛ぶのは、いかにもな感じ過ぎて抵抗感がありますが……「ロリとの恋愛は絶対にさせない!」という白鳥先生の強い決意が伝わってきますね(笑)。
とはいえこの構成は、おそらく誰でも予測できてしまうものだと思います。
綺麗すぎて「多分こうなるんだろうな」という枠を超えていないんですね。
その意味でも、銀子が死なない展開にして、よかったと思っています。
おかげで、将棋の歴史の中でも非常に面白い時期に、その影響をモロに受けながら話を書いていくという、苦しくも幸せな日々を過ごすことができたのですから。
このプロットには、将棋ソフト(AI)の急成長と、藤井聡太を筆頭とする令和時代の棋士の活躍が抜けています。
『りゅうおうのおしごと!』は、1巻発売後に、将棋界への取材が本格化します。
その取材の成果を作品に盛り込むことで、10年前の自分では想像もできなかった規模にまで話を膨らませることができました。
あいが八一に挑戦するという着地地点だけは決めていたので、ギリギリのところで崩壊を免れた……と、自分では思っているのですが。どうでしょうね?
「まだ原作を読んだことがない」という人は、このプロットと銀子生存ルートのどっちが面白いか、ぜひ読み比べてみてください!

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