人の言葉を代わりに書く仕事で、メシを食べてきました。
白状すると、自分の用事になった瞬間「メールを打つくらいなら電話したほうが早い」と本気で思っているタイプです…笑。3行打って、消して、通話ボタンを押す。長文返信必須のラインが来ると、正直くそイラっとします。人の言語化で食ってきた人間が、自分の言語化になると逃げたくなる。
むかし経営者の視点で本を読み漁っていた時期に、1行だけ、いまも棚に残っている言葉がある。どの本だったかはもう思い出せないんだけど(そもそも言語化の本だったか、経営の本だったかも、あやしい)、
「言語化の仕事を押し付けない人と仕事は組みなさい」
これ。読んだ当時は、組む相手を選ぶための言葉だと思っていた。押し付けてくる人を見分けて、避ける。それで終わり。意味がひっくり返るまで、そこから何年もかかった。
先に、いまの理解を書いておくと…
言語化は能力の問題ではなく、言葉にする労力をどっちが持つかの分配の問題。で、分配が偏っていても壊れないのは、相手がそれを黙って引き受けてくれている間だけ、、、が結論です。
もしかしたらあなたも、テーブルに1枚しか来ない伝票を誰かが払ってくれているからこそ、生活が円滑に回っている事実に気づいていない方かもしれない。
ちなみに、押し付けの形は、たぶん3つに畳める。
①「どうしたらいいですか?」だけを持っていく。考える労力を、そのまま相手に渡している。
②選択肢を出さずに持っていく。決める材料をつくる労力を、相手に渡している。
③「いい感じで」で投げ返す。定義する労力を、相手に渡している。
私は、察する力が高い人が大好きです。
飲み物があけば、いの一番で頼んでくれる。
確認するまえに必ず報告をくれる。
忙しいときは自然と話かけないでくれる。
そんな、1を言って10を返してくる人だけを、自分の手で周囲に残して経営してきた。
結果、自分の言語化能力がまったく磨かれないまま、察してもらう力で、できている気になれた…それが、20代中盤まで続いていました。
壊れたのは、環境が変わった瞬間から。
ひとつはSNSを始めた当初。察してくれる人がひとりもいないタイムラインに、「例のやつ」の文法で書いた文章を出した。通じない。伸びない。誰も拾わない。画面の向こうに、私の主語を補ってくれる人はいなかった。
もうひとつは新規事業で、それまでと全然違う人たちと組んだとき。私の好みで集めた人たちと違って、事業の都合で組んだ人たち。チャットで「これ、いい感じでまとめといてもらえる?」と送って、翌日返ってきたものに「うーん、ちょっと違うんだよな」と返す。2往復目まではまだ会話だった。3往復目で相手の返信が短くなって、4往復目で敬語が増えて、「では、どうしたいか具体的に教えてください」が来る。
話が少しそれるけど、関係が壊れる合図って、怒りより先に敬語で来ると思っている。あの「では」は質問の顔をした、伝票の突き返しだった。私はそれを、何度もやった。相手を替えても、同じ場所で、同じ順番で壊れた。
そこでやっと、あの1行の意味がわかった気がします。組む相手を選ぶ言葉だと思っていたけど、私の周りで押し付けていたのは私だったのかなと。読んだとき、線を引く場所を間違えていたんだと思う。
なので私はいま、頼むまえに自分の宿題を終わらせます。「これやりたいんだよね」という希望のまま出さない。「これをやりたいから、実装までのイメージプランを考えてきた」まで持っていく。目的を添えて、こういうコンセプトで、こういう結果を出したいから、この順番で実行してほしい、と1から10まで自分で言語化して設計してから渡す。考える部分は、私の宿題。相手には、実行と、そこからの上乗せだけを頼む。
例外がひとつあって、相手の思考力を上げたいときだけ、考える部分をわざと残して渡す。ただし「ここは考えてほしい」と、こちらが決めて、相手にもそう言ってある場合だけ。
で、ここ数年、送信するまえに自分に確認していることが5つある。1個でも欠けていたら、言語化の労力をそっちに押し付けている合図、ということにしている。
**□目的(何のためにやるのか)を添えたか
□完了の定義(どうなったら終わりか)を書いたか
□手順(この順番で)を自分で組んでから出したか
□判断材料(選択肢と、自分はどれを推すか)を渡したか
□託す範囲(ここは考えてほしい)を、意図して決めて渡したか**
全部そろった日でも、メールを打つくらいなら電話したほうが早い、といまでも思っている。変わったのは、電話を切ったあとに、いまの30秒で考える部分を誰が持ったのか、少しだけ考えるようになったこと。
察してくれる人は、いまも私の周りにいる。その人たちが察さなくても通じる文章を、先に私が書く。それでも週に1回くらいは口から「例のやつ」が出て、隣で誰かが黙って引き受けてくれている…と、あとで気づいて絶望する。
…FIN
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記事を読んでいただいた方へ、簡単な自己紹介をさせてください。
名前:川岸宏司 仕事:DIL 共同代表COO Reframe CEO ASTRA CEO 他
業務内容:経営者向けX顧問/デザイン事業全般
著書:『1%読書術』『耳を鍛えて4倍速読』『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』
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