アウトソーシング市場は今、ゲームチェンジを迎えている
長年人海戦術で形成され、巨大化してきたアウトソーシング(BPO)市場は、AIによってゲームチェンジが起きている。従来のBPOマーケットは、如何に丸ごと請けられる人的リソース、拠点を確保し、規模の経済を効かせながら大量のアウトソース需要を捌けるかどうか、いわば資本力のある大手プレイヤーが寡占する状況であった。
この状況が、AIによって従来は考えられなかった水準の粗利率を実現できる構造へと変化しつつある。人間に関わるコスト、推論コストの圧縮を適切に設計できるプレイヤーによるゲームチェンジが起きている。

2つの参入機会
AIによる生産性向上は、(i)既存のエンタープライズ向けBPO領域における処理単価の低下と、(ii)知的専門性の民主化による新規BPO領域の創出という2つの参入機会を同時に開く。
(i)大手が寡占してきたBPO領域:大手が数千人規模の人的リソース+オフショア拠点で寡占している領域
(ii)AIで成立する新たなBPO領域:SMBでは専門性に対してコストが見合わず、内製または未処理だった領域

領域別にどう参入するかは全く異なる
ゲームチェンジを迎える当領域では、AIによる処理単価の低下圧力が常に働くため、"単価"による勝負がしづらい。
したがって、"数量"と"粗利率"をどれだけ極大化できるかが勝負となることから、主に6つのポイントが重要と考える。
・マーケットアプローチでの選定:流通する業務量や頻度、AIによる代替適合性、既存BPO事業者の寡占有無
・特化/標準化の設計:どこまで特化していき、型を当てはめていくか(単価、粗利率とカスタマイズ工数のバランス)
・営業力:営業組織、営業チャネル、営業プロセスなどの設計
・粗利率:オペレーションエクセレンス(人間とAIの最適な役割分担、タスク実行方法)、推論コストのマネジメント
・顧客へのロックイン:顧客から継続的にフルキャパシティで受託し続けるための粘着性、後発に対する参入障壁
・ファイナンス:リードタイム、1人あたり生産性と受注量予測を踏まえた調達、専門人材/販路獲得に向けたM&A

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エンタープライズ向けBPO:AI/体制の構築力勝負
従来では、大量採用・労働集約的にデリバリーされていた領域。オフショア拠点も活用しつつ、数千人単位の人的リソースを確保し、資本力と老舗企業としての信頼を武器として大手が寡占している。
新興事業者がこの領域で勝つには、大手と遜色ないキャパシティを担保すること、加えてエンタープライズの内製化志向や既存システムへの接続要件にも応えることの両立が求められる。そのため、顧客のワークフロー内へ一定割合のAIをデプロイしつつ、人間とのハイブリッドでデリバリーする形態が現実解となる。また、直販ではセールスサイクルが長期戦となりやすいため、ケイパビリティ補完をフックとしたアライアンス、M&Aによって上手く入り込んでいく戦略も重要となる。

事例:Crescendo
Crescendoは、カスタマーサポート領域のAI BPO事業を展開。完全自律型(例:Sierra・Decagon)と純粋人海戦術型BPOの中間に位置するのが特徴。AIを顧客のワークフローへ常駐させ、自社のCSエキスパートが例外対応・品質担保を担うことで、コスト削減と品質担保を両立している[i]。主に下記2つが成功要因といえる。
Human-in-the-Loop型での品質改善
顧客社内にAIを常駐させつつ、自社側にエキスパート人員を抱えて品質・例外処理・継続改善を担うことでキャパシティ、品質を既存大手以上に担保しつつ、価格競争力を以ってデリバリーすることを実現。
M&Aによるリソース、顧客基盤の早期構築
2024年にカスタマーサポート事業者のPartnerHero社を買収したことで、3,000〜3,500名規模のサポート体制を確立し、200社以上の顧客基盤を獲得した。[ii]。
SMB向けBPO:デファクト化のスピード勝負
AIが処理単価を大幅に引き下げることで、SMBを中心に初めて外注という選択肢が経済的に成立する領域である。
既存事業者が参入しきれていないフラグメント市場であるため、いかに早くデファクト化するかが勝負となる。具体的には、(i) AI-SDRを駆使した短いリードタイムでのSMB開拓、(ii) 顧客の既存ワークフローを極力変えない導入設計、(iii) 処理件数とデータ蓄積によるロックイン形成、この3点を高速に回すことが重要となる。

事例:Tennr
Tennrは、医療紹介状・患者情報処理のAIによる自動化を展開。FAX・メール経由の書類をAIが読み取り、保険適用チェック〜事前承認〜患者ルーティングまで一気通貫で実行[ⅲ]しており、主に下記3つが成功要因といえる。
あえてデジタル化しない
多くのスタートアップがFAXを廃止してデジタル化の方向を目指す中、Tennrは「FAXがある現実に合わせる」設計を選んだ。大量のFAXが当たり前だった同業界において、現場の運用を変えずに導入できたことが急成長の鍵だった。
専用モデル(RaeLM)の構築
「紹介状処理」という一つのワークフローに絞り、専用モデルを構築。汎用AIでは到達できない精度・運用上のレギュレーションへの対応を、モデル特化によって成立させた典型例である。
ROIの明確な可視化
コンバージョン率・返戻率・FTE削減数から毎月ROIを可視化し、顧客をロックインしている。
最後に / 起業家の皆様へ
本レポートでは、AIによって巨大なBPO市場のゲームチェンジが起こり、2つの参入機会が生まれる点、それぞれの参入機会において重要な視点や取り組みについて整理してきました。
例えば、医療・介護領域のAI BPOは、従来採算が取りづらくSMB向けのBPOでの規模化が難しかった状況が打開され、ルール照合型業務とAIの相性の良さ、そして構造的な人手不足という追い風が揃った領域です。
件数ベース・成果報酬型のマネタイズにより、従来BPOを利用できなかった小規模事業者まで顧客化が可能となり、潜在的な市場規模は既存BPO市場を大きく上回る可能性を秘めています。
私たちは、こうした領域における AI BPOスタートアップに注目しており、営業力とドメイン知識を兼ね備えた創業者とともに、この領域を開拓していきたいと考えています。該当領域で挑戦中の方、あるいは挑戦を検討されている方、また事業のポイントについてお考えがある方、ぜひ種市(@jafco_taneichi)上岡(@hrkmok)とお話しましょう。
筆頭著者
東京外国語大学国際社会学部朝鮮語科を卒業後、2025年4月当社入社
【主な投資先】 ROUTE06
【Xアカウント】 @jafco_taneichi
早稲田大学基幹理工学部表現工学科を卒業後、IGNITION POINT GROUPを経て、2024年9月当社入社
【主な投資先】 アディクシィ
【Xアカウント】 @hrkmok
領域特化投資プロジェクトチーム
慶應義塾大学を卒業後、トヨタ自動車、 アーサー・ディ・リトル・ジャパン勤務を経て、2022年10月当社入社
【主な投資先】 A1A、CAGUUU、newmo、Fact Base、AGRI SMILE、ゼロボード、ROUTE06、WAKAZE
【Xアカウント】@yuki_tanaka1995
関西学院大学を卒業後、freeeを経て、2023年8月当社入社。JAFCOでの人事経験もある
【主な投資先】The Chain Museum、KIS
【Xアカウント】@kamiaka_1994
東京大学農学部応用生命科学課程生命化学・工学専修を卒業後、2023年4月当社入社
【主な投資先】シンプルフォーム
【Xアカウント】@horinouchiyuma
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[ii]https://www.partnerhero.com/blog/crescendo-acquires-customer-operations-innovator-partnerhero





