本日は、トークン利用を最大化する「トークンマキシング」が一巡し、AIのROIを問う「トークンマネジメント」にトレンドが移行しつつある点。そしてトークンマネジメントは人員計画やマーケティング投資判断等と「同等に重要な経営イシューであるという話です。
またこの「トークンマネジメント」という言葉は海外ではより技術的に、「トークンオプティマイゼーション」という単語で語られています。今回はわかりやすさ重視でトークンマネジメントという単語を使いますが、トークンオプティマイゼーションと同義の単語と捉えてください。
トークンマキシングとその反動

トークンマキシングからトークンマネジメントのパラダイムに
過去1年、生成AIの利用は「トークンマキシング」とでも呼ぶべきフェーズにありました。とにかくトークンを浴びせる、最強モデルを叩き続ける、文脈を限界まで読み込ませる。AIベンダー側も定額サブスクリプションで実質的に補助金を出しながら、利用量の拡大そのものを成功指標として走らせてきました。ユーザー側も、コストを気にせず一番強いモデルを使うことが、競争優位のように語られていました。
しかし2026年に入って、この構図にはっきりとした反動が出始めています。
象徴的なのがUberです。同社は社内にClaude Codeのリーダーボードを置きエンジニアの利用を競わせた結果、2026年のAIコーディング予算をわずか4ヶ月で使い切りました。UberのCOOのAndrew Macdonaldは
「これからは、トークン消費とそれに伴うコストを、人件費と並べて議論しなければならない」「使った分だけ顧客に届く機能が増えている、その直線が引けないのなら、このトレードオフは正当化が難しい」
とPodcastで言及しています。同じ問題意識は、AIを売る側からも語られ始めています。MicrosoftのSatya Nadellaは2026年3月のMorgan Stanley TMTカンファレンスで
「なぜこれほど多くのトークンを使っているのか。トークン効率としてはむしろ最悪のことをやっているケースが少なくない」「次の1年で誰もが取り組むのは、AIを効率化するためのツール利用とソフトウェアだ」
と述べました。実際Microsoftは、社内向けに導入したばかりのClaude Code直接ライセンスを大幅に縮小)しています。
ここから先、AIは「いくらでも使えばいい」道具ではなく、人件費やマーケティング費と同じく、ROIを問われる対象になります。経営にとっての論点は、トークンをどれだけ使ったかではなく、そのトークンが何を生み、次にどこへ振り分けるか、に移っていきます。
大規模なトークン利用は競争の必要条件である
少しネガティブな話になりましたが、大前提AIの進化は非常に強力です。開発領域で、コーディングエージェントを使わない選択肢はありません。ここに、ある一定のトークンコストを積めない会社は、もう競争から離脱していると同義だと思います。かつその一定のトークンコストのハードルはかなり高いです。投資体力がないと加速できないという厳しい現実と向き合わないといけません。
実際、エンジニアが消費するトークンコストは、すでに給与の数十パーセントから半分相当に達するケースも珍しくありません。「エンジニア1人を雇うコスト」を、「給与」だけではなく「給与プラスAIトークン費」のセットで考える必要が出てきています。経営にとって、まったく新しいコスト科目の登場です。
トークンマキシングは意味のない動きではなく、全力アクセルでAIを使った結果、ここは踏むべき、ここはもっとコントロールしようという学習が一気に進んだと思います。今後は踏むべきところは踏む、コントロールすべきところはコントロールするというトークンマネジメントができる会社が抜きんでるはずです。
トークンマネジメントは経営イシューそのものになったのだと思います。トークンマキシングは企業の構造変化のための重要な第一歩目だったのです。
当社でもトークンをとりあえず使うというフェーズは終わり、アウトカムをいかに出すかというフェーズになっています。LayerXの羅針盤の中にも、「AIを成長ドライバーにする」「使われないものを作らない。AIによるビルドトラップにはまらない」という指針があります。

https://speakerdeck.com/layerx/compass_202209?slide=34

https://speakerdeck.com/layerx/compass_202209?slide=36
この指針の結果、社内でトークンの最適化を行いました。使うべきところは使い、最適化すべきところは最適化したのですが、それでも利用トークン数は、LayerXでトークンマキシングをしていた頃と大きくは変わっていません。ある一定以上の大規模なトークン利用は競争の必要条件になったと感じます。
コーディングエージェントは「先行事例」にすぎない
ここで重要なのは、この爆発的なトークン消費が、コーディングという特殊領域に限った話ではないということです。
現在、コーディング以外のあらゆる業務が、コーディングエージェントと同じやり方で解かれようとしています。営業のシグナル収集や提案作成、カスタマーサポートの問い合わせ対応、経費精算の自動申請や自動承認、法務の契約レビュー、マーケティングの広告運用、人事の採用スクリーニングなど、これらが次々と自律実行型エージェントとして再設計されつつあります。
自律実行されるエージェントは、これまでの「人が1問1答する使い方」とは比較にならない量のトークンを消費します。エージェントが仕事をするようになればなるほど、すべてのAI利用は、いまコーディングエージェントで起きているのと同じ構図に収束していきます。コーディングエージェントは、たまたま最初にその構図に到達した先行事例にすぎません。

すべての業務が「コーディングエージェント化」する
現在「エンジニアだけの問題」に見えているAIトークンコストの管理課題は、まもなく全社的な経営課題になります。今後数年で、社内のあらゆる業務領域が同じトークン消費プロファイルを持つようになるからです。
トークンコストは時限爆弾

トークンコストは時限爆弾
ここでもう一つ認識しておくべき事実があります。いま私たちが支払っているAIサブスクリプションの料金は、実態のコストを大きく下回っているということです。
いまのAIサブスクリプションは、基盤モデルを提供する各社にとって赤字での提供が常態化しており、私たちが払う定額料金と実際にかかっているコストの間には大きな乖離があります。同じ利用量をAPI従量課金で計算し直すと、コストは桁違いに跳ね上がります。サブスクという形式が、ユーザー側から実コストを見えなくしているということです。
問題は、この実コストとの差を、基盤モデル各社がいつ顕在化させてもおかしくないことです。定額からトークン課金へのシフト、上位プランへの誘導、値上げといった形で、いままで補助されてきた分が顧客側に転嫁され始めた瞬間、「いま1IDあたり月数万円。従業員100名の会社で年間数千万円というオーダーのコスト」という感覚は短期間で「会社全体で年間数億円、数十億円」のオーダーに跳ね上がる可能性があります。サブスクが隠している実コストの差が、そのまま時限爆弾の威力になります。
最初に必要なのは、爆発が表面化する前に、社内で何が起きているかを見えるようにすることです。
(詳細はこちらの記事が参考になります。 https://www.thestateofbrand.com/news/ai-subscription-time-bomb
まず可視化
この問題に対して最初に必要なのは、極めて基本的なことです。「誰が、どのモデルに、何トークンつかっているのか」を見えるようにすること。それだけです。
人に対しては、私たちはすでに人事評価、目標管理、給与制度、組織設計といった膨大なマネジメント基盤を持っています。マーケティング費用についても、CACやpaybackを測りながら最適化するのが当たり前になっています。購買調達には専門チームとワークフローがあります。
ところがAIに対しては、この最も基本的な可視化すら、まだ整っていません。経営者や情報システム部門にとって、「いま誰が、いくらAIに使っているか」が見えないこと自体が、すでに大きなストレスになっています。ダッシュボードに数字を出すだけで価値が生まれる状態です。
私たちが現在提供している「AIトークンアドバイザー」は、まさにこの空白を埋めるためのプロダクトです。誰が、どのモデルに、どんなタスクで、何トークン使ったかを可視化する、シンプルなツールです。(バクラクユーザーは1ID無料で使えます! )

https://bakuraku.jp/resources/product/pre-registration-ai-token-advisor/ より
ただし、可視化はあくまで入口にすぎません。本当に重要なのは、その先に必ず立ち上がる問いです。
「そのタスクは、本当にそのモデルを使うべきだったのか」
可視化が進むと、次に必ず立ち上がる問いがあります。「そのタスクは、本当にそのモデルを使うべきだったのか」という問いです。
たとえば「今日の天気は?」のような問いに、最上位の推論モデル(Claude Opus 4.8やGPT-5.5など。2026年5月現在の最新モデル)を使うのは、明らかに過剰です。最も軽量なモデルで十分であり、そもそも推論モデルである必要すらありません。同様に、定型的なメール作成のような、すでに枯れたタスクに対して高価なモデルを使い続けているケースは、社内に大量に存在しています。
人によっても傾向は異なります。AIを使い慣れていない人ほど、とりあえず一番強いモデルを選ぶ傾向があります。逆にAIを深く使いこなしている人は、タスクの性質に応じてモデルを使い分けます。この差は、コスト面でも品質面でも、組織として見たときに無視できない大きさになります。
ここで重要なのは、AIへの入力は最終的にすべて「プロンプト」という形に変換される、という事実です。チャットの質問文も、エージェントに渡されるコンテキストも、内部的にはすべてプロンプトとしてモデルに入力されます。逆に言えば、プロンプトを見れば、その人がAIに何をやらせているかがほぼわかります。
このプロンプトを起点に、タスクとモデルのミスマッチを検出し、「このタスクなら、もっと軽いモデルで十分ですよ」とガイダンスを返す。さらに進めば、人が都度モデルを選ぶのではなく、システムが自動的に最適なモデルを割り当てる。そういう世界に向かっていきます。

モデルルーティングによって裏側で勝手にコストが最適化
エージェント時代になると、これはさらに重要になります。エージェントは自律実行するため、人間が「いまOpusを使うのは贅沢かな」と都度考える余地はありません。最初から、タスクの性質に応じた最適なモデル選択をシステム側に任せる以外の選択肢がなくなっていきます。
バクラクで提供しているサービスは、ここを意識しなくとも最適なモデル選択をするような裏側の実装まで含めて、マネージドサービスとして提供します。AIトークンアドバイザーはあくまで入り口に過ぎません。
まとめ
AIトークンコストは、すでに「とりあえず突っ込め」で済ませられる規模を超えつつあります。会社によっては、人件費とマーケティング費に相当する規模の費用になりつつあります。
マーケティング費はCACで厳格に管理されており、「CACを無視してとにかく広告を打て」という運用は誰もしません。人件費も同じで、給与、採用、配置のすべてが管理されています。「どんな給与でも人を採用せよ」とはなりません。
これと同じ次元で、AIコストもマネジメントの対象に入ってきます。そのときに最初に必要になるのが、まず「いくら使っているか」を可視化すること。そして次に、「タスクや人に対して、適切なモデルが選べているか」を点検することです。
地味に見えますが、この2つを押さえることが、これからの数年で経営の重要な論点になっていきます。
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